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THE_ECONIMIST アーカイブ

2008年03月02日

A Trip To Bagdad

What lies behind Mahmoud Ahmadinejad’s trip to Iraq at the weekend?

イランのアフマディニジャド大統領が、三月二日よりバグダッドを訪問する。イラクのタラバニ大統領の招請を受けての、歴史的訪問となる。両国の関係は、フセイン政権崩壊後好転した。とりわけ現在のイラク執行部の多数がフセイン政権下でイランに亡命していたというつながりが、両国の接近の背景にある。

イラン大統領のバグダッド訪問の狙いは、二つであるという。一つは、国内向けのメッセージ。イランの経済は、石油価格高騰という追い風があるにも関わらず、現在思わしくない。三月十四日には、議会選挙がある。イラン大統領は、国民に自国の影響力が拡大しているというポーズを取って、自国の経済向上に重きを置かず反西洋の対外政策に傾斜する自分の政治が成功していることを、国民に示したいのだ。
もう一つは、外向けのメッセージだ。イランの核開発を批判する西側諸国に対して、イランがリージョナルパワーであることを見せ付けたい。とりわけ、アメリカに。イラン大統領のイラク訪問を受けて、ブッシュ大統領は発言した。

"He's a neighbor. And the message needs to be, quit sending in sophisticated equipment that's killing our citizens," (ABCNewsより)

― 彼(イラン大統領)は、隣国だからね。メッセージを伝える必要がある。「我が国民を殺すための高級な武器を、送り込まないでくれるか?」と。

シーア派が多数を占めるイラクという国において、イランの影響力は大きい。アメリカは軍を駐留させているとはいえ、イラクはアメリカの植民地ではなく、外交権を持つ独立国だ。イラクがイランに接近することは、テヘランを孤立させたいアメリカにとって疎ましいところだ。そのイラクから、おそらく民主党大統領候補に選ばれるであろうバラク・オバマは撤退することを公約している。このことは、これから秋の大統領選で必ず共和党側から突っ込まれるだろう。オバマ氏はもしやイランと妥協して、イラクの平和を肩代わりしてもらうつもりだろうか?

2008年03月03日

An ugly victory

Dmitry Medvedev's easy win in the Russian presidential election does not give him legitimacy

三月二日のロシア大統領選挙は、当然のごとくメドベジェフ氏の勝利であった。これで、大統領メドベジェフ - 首相プーチンの体制がとりあえずスタートすることになる。本記事は、記者がモスクワの投票所No3065において遭遇した出来事を、記載している。この投票所は、投票時間終了の三時間前に当局(?)の警備員によって、テロリストの懸念あるいははっきりとしない「技術的」問題が理由で、閉鎖されてしまった。その後記者ら外国人報道者が受けた荒っぽい人払いの作法は、驚くにも値しないことだろう。ロシアや中国といったジンギスカン帝国の末裔たちは、政治上の細かい手続きにそもそもこだわらない遊牧国家の作法で統治する国なのだから。

だが、出来レースで勝利したメドベジェフ - プーチンであるが、ロシアの民が投票結果を気にもとめないのは、ひとえに好景気で生活水準が向上しているおかげである。その源は、経営努力による生産性の上昇ではなくて石油ほか天然資源価格の高騰に依存している。ようやく見えて来た米国発の不況で世界的需要が弱含みとなったときに、メドベジェフ - プーチンは民を納得させるネタをどこに求めようとするのであろうか。ともあれ、新体制が何をするのかを今後見極めなければなるまい。

2008年03月04日

A bloody incursion

Israel's intervention in Gaza

イスラエルの最有力紙"Haaretz"に、ガリラヤ地方におけるドルーズ教徒へのユダヤ人の陰湿な迫害についての一記事があった。ドルーズ教徒とはイスラムの一派で、イスラム主流からは異端とされている。イスラエル政府は建国以来パレスチナのドルーズ教徒と盟約関係を結び、彼らはユダヤ人でないにも関わらず兵役にすら就いているのである。しかし、やはりと言ってよいか、ユダヤ人の国で少数民族への差別に苦しんでいる。他の少数民族であるベドウィンやアラブについても、同様に不満が高まっていることを、記事は伝えている。
その一方で、先週二月二十七日以降始まったIDF(イスラエル軍)によるガザのハマス陣地への陸空からの報復攻撃による破壊の後で、イスラエル陸軍が発表した「ほぼ90%の死者は武装勢力」という主張に対して、イスラエルの人権団体B'Tselemは軍の主張の誤りを主張している。今回のガザ地区への攻撃についても、"Haaretz"の世論調査では64%が「ハマスと休戦・捕虜交換のための会話」を望むという結果が出た。
結局のところ、イスラエルという国は世界の他国と何ら変わることがなく、内に陰湿な排外的気分もあれば人権団体で働く有志もいるし、そして国民は安全な生活を望んでいる。まずその認識を持たなければ、イスラエルを見ることも中東情勢を見ることも誤るであろう。ユダヤ人が全て悪いという反ユダヤ主義は反日主義や嫌韓厨と同じレベルの偏った見方であり、他方に存在するユダヤ人が全て高潔で最も賢明な民族であるという主張もまた、アメリカに多いユダヤ-キリスト教徒選民主義のファンダメンタリスト教祖たちと同じく、偏っている。真実のイスラエル国は、その中間にある世俗国家である。日本やアメリカと、同じように。
当記事の結論は、イスラエルはハマスと対話することによって、パレスチナのアッバス大統領だけを交渉相手としたいイスラエルの立場が傷付くとしても、そうせざるをえないだろうと言う。ガザのハマスとの全面戦争は多大な流血が予想され、その上イスラエルとしてはたとえやったとしても、今の時点でははっきりとした結果の絵が描けない。ハマスを放置して南のヒズボラに育ててしまうリスクと、ハマスを叩いて泥沼に落ちるリスクと、どちらを取るか。次期のアメリカ大統領が誰に選ばれるかによっても、今後の絵は大きく変わってくるだろう。最近のハマスは、イスラエル南部の主要都市を攻撃できるほどにミサイル武装を充実させている。もし飛び道具の大旦那が予想されているとおりイランであるならば、本当はイランをつぶしてしまいたいブッシュ大統領の無念の声が聞こえて来るようだ。

Clinton's double challenge

Hillary Clinton needs to do well both in Texas and Ohio

日本のメディアは、バラク・オバマ氏に大変好意的である。目立つ人だけにスポットを当てるという日本メディアの得意が、今回も例外なく発揮されている。ドイツ誌"DerSpiegel"のGABOR STEINGART氏は、オバマ氏の人気を

"alarming victory of style over substance"
- 実質よりもスタイルの勝利。警戒すべし

と言っている(記事"Change You Can't Believe In")。 STEINGART氏は、彼の人気をドットコムバブル時代の狂騒と同じだと言う。ドットコムバブル時代には、株価上昇の理由に利益も経験もリアリズムも一笑に付された。当時、利潤を上げてリアリズム路線を行くオールドエコノミーの株価は、低迷した。「上がるのが、上がる理由だ。」これが、バブルの原理である。そして、バブルはいつか現実に地を降ろさずにはいられない。
本日三月四日の民主党選挙で、ヒラリー・クリントンはジエンドかもしれない。記事は、オハイオで勝ってテキサスで惜敗ならば、彼女は立候補運動を続ける理由を得るであろうと、予測している。結果は見てのお楽しみだが、選ぶ家計の足元は春だというのに寒々としている。住宅価格は急落、クレジットの基準は急に厳しくなり、雇用はますます怪しく、その上物価高。遊んでいるお金もないから、今年はテレビで選挙でも楽しもうか。大統領になってからは真面目に働いてもらうとして、それまではエンターテイメントに徹して笑わせてくれる候補の方が、荒む国民の心情にとってはどうせ守られない公約以上のプラスなのかもしれない。

2008年03月05日

Rumours of war

Ecuador and Venezuela confront Colombia over the killing of a rebel leader

ここでも、国内での人気取りのための対外的冒険である。石油価格高騰によってここ数年意気軒昂であったベネズエラ大統領、H.チャベス。彼は、隣国コロンビアが先週末にエクアドル領内で行なったFARC(Revolutionary Armed Forces of Colombia。コロンビアの反政府組織)のアジトへの軍事作戦を同盟国エクアドルのためにこきおろし、国防大臣にコロンビア国境へ部隊を集結させるべきことを命じた。記事は、言う。

この対立がどのように進展するかは、おそらく他の誰よりもチャベス氏の出方にかかっている。彼の国内での人気は、衰えつつある。彼は十二月に国民投票で敗れた。それは、彼がはじめて選挙というもので敗れた瞬間であった。そして、彼は以下のことによってプレッシャーを受けている。自分の政府の無能。高い犯罪率に取り組むことへの失敗。物財の不足。インフレーション。外国と対決し、あるいは少なくとも一戦を交わす機会に乗ることは、間違いもなく彼にとって願ってもないことだ。

チャベス氏は反米路線でアメリカでは憎まれ役の有名人であるが、彼のパワーの源はロシアのプーチン氏と同様に石油価格の高騰である。だがチャベス氏も隣国といがみ合っているようでは(FARCのアジトから押収されたラップトップPCには、チャベス氏がFARCに300万ドル支払った文書があったとコロンビア当局が発表している)、彼の夢である反米のためのラテンアメリカ同盟など、とてもおぼつかないであろう。主義を現実の力とするためには、仁(国内国外の人民への福祉)・義(国際的道義)・礼(外国への尊敬)・智(長期的戦略を練る智恵)の四つが、必要ではないか。

Plastic fantastic

At A Glance

2003年にドットコム不況が終わってから、アメリカ人のクレジットカード使用額は大きく膨らんだ。三年前の2005年の数字で、一人当りのクレジットカード使用額は6700ドルであったという。表を見れば、2003年にはほぼ5000ドルであった。オーストラリア・カナダではアメリカ以上にクレジットカードの一人当たり使用額が急上昇している。
バーナンケFRB議長が、抵当流れ阻止のためのさらなる施策を取るべきと発言したのは、当然であろう。アメリカの家計は、ここ数年住宅価格の高騰期待とクレジットカードの借り入れで、薬漬けとなっていた。クレジット業界は、アメリカ家計がトータルで見れば借金を返済するトレンドにあることを前提に、気前よいクレジットを供給して来たはずだ。その前提が、今や崩れ去っている。右肩上がりの資産価格を前提にした信用創造は、酩酊する薬であった。薬が切れた以上、消費の落ち込みはどこまで行くかわからない。

Die another day

Hillary Clinton bounds back into the Democratic race with victories in Texas and Ohio

四日の民主党大統領候補選挙は、ヒラリー・ロダム・クリントンの完勝に終わった。オバマニアの熱気も、オハイオの労働者とテキサスのヒスパニックたちには伝染しきれなかったようだ。テキサスでヒスパニックの投票率が記録的な高さとなったということと、選挙の結果を見れば、オバマ教祖の宗教的空気に嫌悪感を覚える年配層が相当多く投票所に駆けつけた、といったところであろうか?
とにかく、四日の結果をもって民主党の候補選挙は8月の党大会で決められるであろうことが、ほぼ確実となってしまった。テキサス州でヒラリーさんは勝ったが、元来この州は共和党の金城湯池で、本選挙で民主党に勝ち目は薄い。民主党が勝つためにはリベラルの地盤が固い、都市部と郊外で勝てる候補が必要だ。オバマ氏は若い層に圧倒的に強く、無党派層を巻き込んで投票パターンを変化させる可能性がある。一方ヒラリーさんは、大都会を含むニューヨーク州・カリフォルニア州で勝ったという実績がある。"change"を取るか、"experience"を取るか、民主党は二人のスローガンのどちらを取るか、岐路に立たされている。片方を取れば、もう片方を支持していた層は少なからず失望するであろう。
昨晩のTVで結果に表立って喜んだのはヒラリーさんであったが、真の喜びを噛み締めているのは、民主党の分裂を見た共和党のマケイン氏であろう。

2008年03月06日

The decoupling debate

As America's economy struggles to stay aloft, the developing world is learning to spread its wings

記事は、アメリカの景気悪化がアメリカ以外の経済に及ぼす影響が、近年ますます小さくなって来ていると主張している。すなわち、デカップリング論を後押しする。

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2008年03月07日

The puzzle of power

Japan's local governments are unhealthily dependent on its national one

日本の農業は、アメリカやオーストラリアなどのそれとは異質なシステムである。
水利権は農民たちの間に厳しくコントロールされなければならず、起業家精神が抜け駆けて独走できる余地は限られている。所有権は戦後の農地改革によって細分され、零細(だが富裕)な自作農が農村を埋め尽くしている。このように、農村の経済システムがムラ社会を維持するようにできあがっていて、自分たちに美味しい土産を持って帰ってくれるムラの殿様を支持するように、作られている。それは個々の農民の罪ではなく、日本の農村のシステムがそうさせているのだ。
本記事は、当雑誌の日本に対するいつものオピニオンに、これまた従ったものである。日本の地方政治は、財源を中央からのバラマキにいまだに依存している。小泉政権は公共事業をカットして中央から送られる金を減らしたが、それは地方を干上がらせただけで地方を自律させていない。ゆえに、地方が中央のバラマキに大きく依存するシステムは変わらず、そのシステムで地方票を受け取っている自民党の支配も変わらない。
地方政治家の中には、農村を肥やすことにしか役立たない公共事業を中央から割り当てられることによって、都市部の発展と雇用が阻害されて自然景観が損なわれることに憤る有志もいる。地方首長が音頭を取った政党横断グループ「せんたく」は、日本のバラマキシステムの改革を望んで自民・民主両党の議員を集めている。
しかし、都市部住民の希望するシステムは、果たして日本の農村にWin-Winの結果をもたらすであろうか。都市部住民は、正直言って農村の実態など何も知らない。トマトがどうやって作られているのかなど気にも留めずにモスバをパクつく連中である。日本の農業を再生させるには、篤農家がもっと規模を大きくして農業に精を出せるシステムづくりが不可欠である。そのためには、借地農を育てなければならない。しかしムラ社会でがんじがらめに絡め取られている農村では、借地農が大きくなることは現在非常に難しい。ゆえに、日本の農村はビジネスに育たず、零細な兼業農家ばかりとなっている。アメリカの経営者的農民を、今の日本に想定することはできない。
ハマスやヒズボラといった暴力集団が衰えずに生き残っているのは、理由がある。彼らは正統政府よりも、地域住民のためによく働いて住民の支持を受けているからだ。生き残るものには、それ相応の理由がある。都市部の住民の願望ばかりに目を向けていれば、おそらく日本の農業はムラ社会解体と同時に無茶苦茶なスプロール化が起って、壊滅してしまうだろう。いったい日本国の未来は都市にかかっているのか、それとも農村にかかっているのであろうか? - これからアジア諸国に工業がキャッチアップされていく一方の日本において、地方が豊かであり続ける産業は、たぶん農業なのではないだろうか?

You have permission to think freely

China's prime minister lets a hundred flowers bloom. Well, ten

三月五日より、中国では全国人民代表大会(全人代)が開催されている。この席で温首相は、彼らしいリベラルな表明を全国の代表たちの前で披露している。温首相は、政府系の新華社通信に対して、政府に対してもっと自由な発言を促している。百花斉放のすすめである。
しかし、どこまで行くことができるか。かつての趙紫陽が叩き潰された、前例を見よ。たとえ政府へ一言申すべきことが一時的に許されたとしても、中国ではお上への批判はすぐに加熱する。少なくとも、お上は行き過ぎだとの印象を持つ。そうして、弾圧せざるをえない。温首相は地方を精力的に回って、内陸部の農民が悲惨な生活をしていることに気付いている。それで、己の富貴しか考えない拝金主義を制して人民本意の仁政を進めたいと、願っていることであろう。だが仁政は、自由な民主制とは違う。温首相が、リベラル路線を突き進んで趙紫陽の二の舞となる勇気 - 否、暴勇 - を示すかどうかは、限りなく怪しい。
中国の民を操縦するには、為政者は儲けるチャンスを彼らに与えて働かせ、他方で刑罰を用いて彼らに恐怖を与えなければならない。賞と罰を操ることによってのみ天下を統治できるという、始皇帝以来の原則はそう簡単に変えることはできないだろう。

Never say die

The voters in Texas and Ohio have upended the Democratic race yet again

Mrs Clinton can use the peculiar result in Texas—the fact that the caucuses produced such a different vote from the broader primary—to question the significance of Mr Obama's performance in other caucuses, all of which he has won.
― クリントン氏は、テキサスの奇っ怪なる結果を利用できるだろう。つまり、コーカス(党員集会)は、もっと広範囲の予備選挙とは違う結果をもたらすということだ。これは、オバマ氏が勝ち取った他州でのコーカスの重要性を疑わせることになる。

三月四日の選挙結果を受けて、ヒラリーさんが自分の有利をスーパーデレゲートに対して - 彼らの票を加えることなしには、誰も民主党大統領候補に選ばれそうにないことが、確実となった - アピールするために使えるネタは、いくつかある。
一、フロリダ・ミシガン両州の代表は党則違反で数えられないことになっているが、両州ともにヒラリーさんの勝利が確実なはずであった。スーパーデレゲートは、これらの州の党員の声を考慮に入れなければならない。
一、ヒラリーさんは、オハイオ州で大勝した。オハイオ州は、民主党にとって"bellwether state"(本選挙で鍵となる州)である。かつてオハイオ州を勝ち取ることなしに、ホワイトハウスに入った民主党候補はいない。そして、
一、テキサス州では予備選挙が行なわれながら、同時にコーカスでの投票も行なうという変な二重投票のシステムが取られている。コーカスは集会形式であって、駆けつけられる希望者だけが決められた時間に集まって、投票する。コーカスの勝者は、オバマ氏であった。予備選挙は投票日以前にも事前投票ができる。予備選挙の勝者は、ヒラリーさんであった。民主党の基盤である労働者や主婦は、仕事や家事に忙しくてコーカスに出席が難しい。オバマ氏はこれまでコーカスで勝利を重ねてきたが、それは民主党支持者の真の層を反映していないのではないか?
しかし、現在ではいまだにオバマ氏が多くの代議士を獲得しており、おそらくこの差は縮まったとしても逆転しそうにない。そこで、スーパーデレゲートの判断次第となるだろう。記事は、民主党の苦悩について、最後にこう書いている。

There is an ancient Greek myth, retold in Aeschylus's play “Seven against Thebes”, about two sons of Oedipus who fought so bitterly over who should inherit their father's kingdom that they ended up slaughtering each other. This could be the Democrats' Theban moment.

― アイスキュロスが劇に仕立て直した古代ギリシャの伝説で、『テーバイに向かう大将』という話がある。テーバイ王オイディプスの二人の息子が、彼らの父の王国をどちらが受け継ぐかを巡って相争った。その結末は、両者が互いに斬り殺しあうというものであった。次のペンシルヴェニア州でクリントン氏が勝ったならば、それは民主党がテーバイとなる瞬間となりかねない。

Death from within

Palestinian gunman brings slaughter to Jerusalem

ハマスによるカチューシャミサイル攻撃の報復として行なわれたイスラエル陸空軍の攻撃によって、ガザ地区で110人のパレスチナ人が死亡した。それが、先週のことであった。そして今週になって3月6日、エルサレムの宗教学校に銃を持った男が押し入って、ユダヤ人学生8人を撃ち殺した。銃撃者は現場で射殺されて、7日現在いまだにその背後関係はわからない。しかし、この男はパレスチナ人であった。かつ、イスラエルの居住権を与えられているパレスチナ人であった。その理由は、イスラエルが1967年以降東エルサレムを併合したことによって、もとからそこに居住していたパレスチナ人をイスラエル居住者とみなさざるをえなかったからであった。現在の数は、約25万人にのぼる。イスラエルによる東エルサレムの併合は、国際社会によって認められていない。
記事は言う、

That kind of inflammatory talk, though still the preserve of the far right, is slowly becoming more politically acceptable among more moderate Jewish Israelis. If Arab Israelis are now seen as potential terrorists too, the hostility will increase.
[パレスチナ人を国から追放するべきだというような]挑発的な言葉は、いまだ極右の専売特許にとどまっている。しかしゆっくりと、より穏健なユダヤ系イスラエル国民にとって、政治的に受け入れられる言葉となりつつある。もしアラブ系イスラエル国民もまた潜在的テロリストとしてみなされるようになれば、敵意は増していくだろう。

衝撃的事件の後には、世論は極端にぶれやすい。しかし、ガザのハマスだけでも対決して成功するかどうか分からないのに、国家が形式的に市民として認めたパレスチナ人にまで敵対的行為に走るとするならば、理性を失った報いをイスラエルはきっと受けることになるのではないだろうか。ユダヤ人が反パレスチナ人への傾斜を強めるときには、現在は親イスラエルの姿勢を保っているエジプトやヨルダンの国内でもまた、反ユダヤ人の憤りが高まっていくであろう。

2008年03月09日

Battling the babu raj

India has some of the hardest-working bureaucrats in the world, but its administration has an abysmal record of serving the public

As India's economy grows, inflating land prices and increasing opportunities for private contractors, corrupt politicians and bureaucrats may find reliable sources of rent that do not involve stealing directly from the mouths of the poor.
― インドの経済が成長し、土地価格が上昇して私部門の取引機会が多くなるにつれて、腐敗した政治家や官僚たちは貧民の暮らしから直接に盗み取らずとも、利益の源を見つけるようになるかもしれない。

記事は、IAS(Indian Administrative Service)たちが赴任する地方でいかに多大すぎるほどの仕事量を割り振られているかについて書いている。IASは"collector"とも呼ばれ、厳しい選抜を受けて採用されたエリート官僚である。その制度はイギリスによるインド統治時代に遡り、現地人から英国的知性を持ちかつ英語を使えるエリートを育成して、少数のイギリス人による支配の手足となって働く役目を与えたところに始まる(ゆえに、"collector"=「租税を集める官吏」と呼ばれているのである)。独立後も、IASは変化することなく高いステータスを維持して地方政治において公正なトップ官僚として期待されている。
記事が描くように彼らの仕事はあまりにもハードであるが、彼らの数は増えつづける人口に比してあまりにも少なすぎる。勢い彼らの行政を補佐するもっと下部の組織の働きに頼らざるをえないが、彼ら以外の公的セクターの職員も、バーブbabuと呼ばれる地方の名士・政治家たちも、パンチャヤットpanchayatと呼ばれる村議会も、腐敗していることが甚だしい。そのため、政府が人民に届けるべく割り振られた資金は、人民に届くことなくどこかで消滅してしまう。その不満を助けてもらおうと、貧民たちがIASに押しかける。
「エリート以外、全て無能で全て腐敗」というアジア社会の構造は、おそらくどれだけ経済成長しても変わることがないであろう。アジア人で最も発達した社会である日本ですら、役所と政府は下に行けば行くほど腐敗しているではないか。よって、貧民を救う最上の策は、経済成長となる。経済が成長すれば、人民をいじめるよりもっとおいしい話が、ビジネスから湧き出てくるだろう。上は利権でうんと儲け、下はそこそこ生活が向上する。清潔な奇麗事を言うよりも、その方が仁政なのかもしれない。

A Putin-shaped throne

Uncertainty surrounds Dmitry Medvedev's rise to power

But the danger is that Mr Medvedev might try to compensate for his perceived liberalism by being even more ruthless than his predecessor.
― だが危険な点は、メドヴェジェフ氏は彼がリベラルであると目されていることを、前任者よりももっと無慈悲に振舞うことで埋め合わせるかもしれないということである。

メドヴェジェフ大統領が(形だけの)選挙で選ばれて、先週末メルケルドイツ首相がモスクワで新大統領と会見したところである。西側諸国は、彼がプーチンの旦那よりもっとリベラルな政治を、そしてもっと西側に愛想よい姿勢を示してくれることを、期待している。
しかしながら、記事は新大統領の西側の期待に沿わない初仕事を、伝えている。一つは、独占的ガス企業のガスプロムがウクライナへのガス供給を一時削減したこと。ガスプロムの代表は、メドヴェジェフその人である。もう一つは、ヤーブラカ党代表マクシム・レズニーク氏が逮捕されたこと。ヤーブラカ党は、リベラル系である。
この二つの施策は、いずれも何かのポーズを見せ付けるものであった。メドヴェジェフ大統領は、ロシアを乗っ取る元KGBメンバーの仲間うちではない。すなわち、彼の経歴にはKGB奉職歴がない。だから、彼はギャングどもの間で力を持っていないと思われる。そのために、プーチンの旦那とKGBギャングとにタフなところを見せようとするかもしれない。先週起った二つの事件について、記事は上の引用のような懸念を提出している。

The battle for Wikipedia's soul

The internet: The popular online encyclopedia, written by volunteer contributors, has unlimited space. So does it matter if it includes trivia?

最近、NYタイムズオンライン版の記事を読んだ後にWikipediaで用語を調べたら、感じることがあった。NYタイムズオンライン版の記事に書かれている内容と単語や文法に至るまで、全く同一の文がWikiの記事に見つかった。それも、一度ではなかった。まず、アルゼンチンで広まっている"paco"という粗悪なコカイン。次に、中国の昼食会に不可欠な強烈な酒、"baiju"(白酒)もまた、、、
NYタイムズの記者がWikiの記事をコピペしているのか、それともNYタイムズの記者がWikiの記事を書いた本人なのであろうか。そのいずれにしても、これまでオープンソースの百科事典として世界的な広がりを見せたWikipedia運動にとって、明るい展望を示すものでありえない。
本記事は、Wikipediaの将来に黄信号が灯っていることを書いている。"inclusiost"と"exclusiost"の対立。"pokemon"(ポケモン)の300キャラは全てプロフィールが揃っているのに、"solidarity"(ポーランド「連帯」運動)の指導者のプロフィールは10人すら揃わない。参加する書き込み数の落ち込み。既存の項目の追加書き込みに集中する編集、、、これら全てが表していることは、オンライン世界に落ちている知識は、すでに拾われ集められ尽くされようとしているという、徴候ではないだろうか。二十一世紀のオンラインブリタニカ辞典の編纂は、ほぼ終了したのである。ここから後は、ゆっくりと増えていく人類の新知識の伸びにWikipediaもペースを合わせざるをえない。そして人類の知識量の増加ペースは、ネット世界の経済のスピードに比べて苛立たしいほどに遅い。"soy sauce"(しょうゆ)から"guacamole"(ワカモレ)まで世界中のdip(つけ汁)の知識を集めることは3分の作業で仕上がっても、新種のdipは一世紀に3つでも開発されることがあるだろうか。ネットに繋がる人間の知識を集めるという段階のWeb2.0は、どうやらたった5年で進化から衰退への歴史を終えようとしているようだ。

2008年03月12日

Fizzing along

At A Glance

シャンペン酒の売上本数が、2007年にとうとうドットコムバブル時代の記録を抜いて史上最高を記録した。2000年のバブル崩壊で一時落ち込んだ後、消費は伸びる一方である。
シャンペン酒を味わっているのは、すでに先進国だけではない。経済成長を続けているBRICsなどのエマージングエコノミーが、先進国並みの消費形態に近づいている。よって、たとえアメリカや日本の景気が落ち込んだところで、世界全体から見てぜいたく品の消費はそう簡単に落ち込むことはないだろう。上がり続ける石油価格も、また。FRBは、クルーグマン氏の推測するところではどうやらインフレーションに備えて、今のうちに金融を緩和できるだけ緩和する措置を取り始めたようであるが。

Turning nasty

Barack Obama wins in Mississippi but his scrap with Hillary Clinton is getting uglier

Even though he is behind there in the polls, Pennsylvania cannot come soon enough for Mr Obama.
― ペンシルヴェニア州の選挙では、オバマ氏は不利が予想されている。だが、彼にとって投票日までの時間はむしろ長い。

民主党代表選挙は、二候補が決めてを欠く中でいよいよ"nasty"になって来た。オバマ陣営のスタッフがヒラリーさんのことを"monster"と言ったかと思うと、ヒラリー陣営が黒人のフェラーロ氏(1984年の民主党副大統領候補)を宣伝で担ぎ出して、彼が「オバマ氏が候補であり続けている理由は、ただただ彼が黒人だからだ」と言わせてみたり。これに対してオバマ陣営は、当然のごとくレイシズムだと批判している。
"nasty"な大統領選挙は今に始まったことではないから泥仕合でも何でもすればよいが、オバマ、クリントン、マケインのいずれがホワイトハウス入りするかで、アメリカの世界政策は多少なりとも変化する。つまり、世界に何らかの影響を与える。"Der Spiegel"は、三候補が大統領になったときに、彼と彼女たちの公約から推測してアメリカ以外の世界にどのような影響が出るだろうか、記事でまとめている。マケイン氏は元軍人らしく最もタカ派的で、イラクからの撤退はしない、イランには先制攻撃も辞さない、ロシアをG8から追放してインドとブラジルに変える、中国の影響力拡大は阻止する、などという積極路線をこれまで表明し続けている。もっとも、いざ大統領になったとき本当にここまで西側至上主義に走るかどうかは、わからないが。オバマ氏、クリントン氏の両者は、おおむねマケイン氏の真逆路線で一致している。イラクからの原則的撤退、イランとの対話(オバマ氏はイラン大統領と無条件に会見すべきとまで表明している)、中国などの新興パワーとの協調だ。
どちらの路線にせよ、国内政策では全ての候補が財政赤字削減を目標にしている。そのためには、アメリカの軍事支出の大幅増大は難しい選択であろう。EUあるいは日本への軍事貢献拡大への圧力は、誰が大統領となっても今後避けられないのではないだろうか。世界秩序のためのタスクに対して経済力が追いつかなくなってきたアメリカは、二十世紀初頭の大英帝国に似て来た。当時の新興勢力はドイツと日本であったが、大英帝国は日本を取り込んでドイツに包囲網を敷いた。二十一世紀現在のドイツ・日本は、中国・インド・ロシアである。これらの勢いを増すパワーと単独で渡り合える力は、おそらくもはやアメリカにはない。

2008年03月13日

If at first you don’t succeed

Try, try, trying again to solve the credit crunch

Meanwhile, the interbank rate needed to borrow euros for three months hit 4.6%, the highest level since January and more than half a percentage point above official euro-zone rates. That indicated banks still preferred to hold cash rather than lend it.
― 一方、3ヶ月間ユーロを借りる際のインターバンク金利は、4.6%に達した。これは一月以来のレベルであって、ユーロ圏の公式レートよりも0.5%以上高い。これは、銀行がいまだに貸付よりも現金保有を選好していることを示している。

FRBの国債貸付スキームの導入によって、3月11日のダウは劇的に上昇した。しかし勢いは続かず、昨日12日にはまた下落している。
現在の状況は、記事が書くとおりに"debt"という言葉が金融機関にとって4文字言葉なみに禁語になってしまっていることである。金融機関は資産価値の悪化に脅えて、新規貸付を極端に控えて現金保有に走っている。典型的なマルクス的パニック症状である。
日本で97年末にも金融危機が起ったが、あの時期の金融における根本的な原因は、土地価格の連年に渡る下落によって都市銀行の手持ち資産が時間が経つごとに急速に悪化していったことであった。銀行のバランスシートが年々悪化し、手術が必要であったのに決断できず、ついに三洋証券・拓銀・山一証券の連続破綻によって金融の機能はストップした。97年末日本で一手にバランスシートを痛めていたのは、企業部門であった。
現在の金融危機は、かつての日本よりも金融機関のバランスシートはそれほど痛んでいないかもしれない。しかしバランスシートの悪化を、オーバーボローイングの家計部門もまた痛烈に被っている。これは、日本にはなかった状況である。今回のアメリカの危機は、その影響する範囲が日本よりも広いことが懸念される。
もし今後危機が悪化して家計のバランスシート救済にまで政府が手を出したならば、今度はバランスシートの悪化を政府がかぶることになるかもしれない。そうなれば政府部門のバランスシートが、疑われることになるかもしれない。疑うのは、アメリカ国債に投資している諸外国である。アメリカに投資してくれる諸国への信任を取り付けなければ、ドル支配が崩れる。それはアメリカの時代の終わりを意味するから、政府は何としてでも阻止しようとするであろう。そんなときにアメリカ国債の一番と二番の買い手である中国と日本がいがみ合い続けるのは、分割して支配する原則から言ってアメリカにとっては願っても無い状況であろう。

Give over

At a glance

日本人が年々の所得に課せられる負担額は、図を見れば明らかなように先進国中で最も安い水準にある。独身者に対する所得税と社会保障自己負担分を併せた額の平均値は、米国よりもずっと低いのである。

National Government Budgets for 2004 (in billions of US$)
Nation GDP Revenue Expenditure Exp / GDP Budget Deficit Deficit / GDP
US (federal) 11700 1862 2338 19.98% -25.56% -4.07%
US (state) - 900 850 7.6% +5% +0.4%
Japan 4600 1400 1748 38.00% -24.86% -7.57%
Germany 2700 1200 1300 48.15% -8.33% -3.70%
United Kingdom 2100 835 897 42.71% -7.43% -2.95%
France 2000 1005 1080 54.00% -7.46% -3.75%
Italy 1600 768 820 51.25% -6.77% -3.25%
China 1600 318 349 21.81% -9.75% -1.94%
Spain 1000 384 386 38.60% -0.52% -0.20%
Canada (federal) 900 150 144 16.00% +4.00% +0.67%
South Korea 600 150 155 25.83% -3.33% -0.83%

上図は、2004年における主要国の財政状況である(Wikipediaの項目"deficit"より)。
日本は、いわばEU諸国並みの支出をしておきながら、アメリカのように課税している。これでは、財政が破綻するのは当然ではないか。収入よりも支出が多い経営は、本来右肩上がりの成長路線でしか許されない。日本は、いまだに若い頃の夢を見続けている。すでに年を取って体が昔のように動かないのに、なまじ外貨という現金収入が入ってくるので危機感も起きない。今の日本は、じわじわと干からびた老人となって朽ちて行くばかりだ。

2008年03月14日

The new colonialists

China's hunger for natural resources is causing more problems at home than abroad

今週のカバーストーリーはずいぶんと挑発的なタイトルだが、内容はもっと冷静である。
確かに、中国経済が資源を消費するスピードは戦慄的である。こちらの記事では、コンゴのカタンガ州で最近中国人の人口が急増していることを述べている。彼らは香港あるいは上海からやって来た、カタンガ州の銅を買い漁るビジネスパーソンたちである。ダフールではイスラム政府から石油を買って国際社会の顰蹙を買い、イランとヴェネズエラから石油を買ってアメリカを苛立たせ、スリランカ政府にも力を貸してかの政府のタミルゲリラ弾圧に弾みを付けさせている。市場経済 - デモクラシーの"Washington Consensus"が、国家資本主義 - 権威主義政治容認の"Beijing Consensus"に取って代わられる時代が、来るのであろうか?
しかし、記事は皮肉なトーンで、中国からの買い付けが途上国に金を落として、豊かさの増進によりかえって国際社会との協調にドライブを駆けている事態を、指摘している。建前の自由と人権だけ強圧的に押し付けて、実利を渡そうともしない先進国とは違った世界への貢献を、中国は現在遂行しているのかもしれない。自国の金融亡者どもを救済するために金利を下げてドルを下げっ放しにして、世界の貧しい人たちをインフレ地獄に落としている今のアメリカは、貧民の生活に貢献していると言う資格はない。陰陽一対の宇宙の原理にたとえるならば、正面から主義を通すアメリカは陽で、裏から実利を渡す中国は陰であろうか。陰陽が仲良く(?)喧嘩することは、世界の調和にとってかえって望ましいのかもしれない?
スピルバーグ氏の五輪スタッフ脱退事件が効いたのかどうか、中国はようやくダフール問題でも批判に頬かむりすることを改めた。しかし、中国の当局に取って最大かつ唯一のプライオリティーは自国の人民の生活安定であって、外国人の人権などは批判が高まってようやく渋々改める程度にしか考えていないことは、世界は認識しておいたほうがよいであろう。本記事もまた、中国当局をこれから最も揺さぶる力は内側から来るだろうと、指摘している。経済成長は、住民の忍耐の限度を超えるほどに公害をまき散らしている。こちらの記事では、広東省で賃金水準が上昇した結果、低賃金労働に依存した工場が大量に廃業している現状を、伝えている。経済の法則は、中国の汚れた工業をますます儲からない事業に転落させて行くであろう。
住民の反乱は、当局にとって最も恐ろしい。古来からの反乱の種は、三つある。一つは、餓え。一つは、学者。そしてもう一つは、宗教。当局は、まず民を餓えさせてないように配慮しなければならない(陳勝呉広の乱以来、民乱は必ず餓えが背景にある)。次に知識人にはことごとく当局のポストを与えて取り込み、加えて集団での批判運動は弾圧するのが吉である(天安門事件は、漢代の党錮の禁の弾圧と同一次元の治安政策である)。さらに、国家に取り込まれない宗教は、根絶やしにしなければならない(法輪功の弾圧は、やがて黄巾の乱に発展することを恐れたためであるに違いない)。中国当局が自国民を食わせるために世界で資源を買い漁り、かつ国内の人民が公害や不平等のために立ち上がることを最も恐れているのは、二千年前から続いている中華帝国の原則である。

2008年03月15日

Where a common market is divisive

Opening up to China becomes the island's main election issue

いよいよ、台湾では来週土曜日に総統選である。馬英九か、フランキー謝か。
馬英九は、「大中華市場」を公約にしている。EUのごとき、人・モノ・カネの往来完全自由な市場を台湾海峡をまたいで作るというのが、目標である。馬と国民党は、その先に中国への併合を見ているのであろうか。馬は香港出身のいわゆる「外省人」であって、台湾人としての島民のアイデンティティにどれだけ忠実でありえるかどうか。
世界中に散らばる華僑の目から見れば、「台湾国民」などと言って独立の気勢を挙げる勢力の動きは、理解し難い行為に映っているに違いない。台湾など、香港のように帰すべきところに帰せばよいではないか、と考えるであろう。今や香港は、すでに広東省と一体化してしまった。だが、台湾が「中華人民共和国台湾省」になってしまう可能性は、おそらく華僑が考えているよりも小さいと思われる。次の選挙では接線のようであるが、おそらく台湾の将来に大きく影を落とす結果となるであろう。フランキーならばこのままの付かず離れず路線でいくだろうが、馬だと大陸に取り込まれる路線を走ってしまうかもしれない。馬が乗る国民党は、すでに党首レベルで大陸と手を握っているのである。

Fire on the roof of the world

Our China correspondent sends an eyewitness report from Lhasa as Tibet’s simmering resentment boils over

本記事は、"TheEconomist"特派員からの緊急報告である。記事によれば、3.14暴動当時に許可を受けてラサに駐留していた、唯一の外国人特派員であったということである。
特派員の報告している暴動の報告から、非常に大規模なものであったことが分かる。チベットでは中国人の流入が加速しており、ラサの商店はどしどし彼らに占拠されている。そのうえ、本土の影響を受けて物価が急騰している。人民の怒りに火が点く条件は、揃っていた。
特派員の報告する限りにおいては、当局の反応は(見える限りでは)、不気味なまでにおとなしい。チベットにいる中国人は戒厳令の実施を望んでいるというが、当局はいまだに動かない。現在血の弾圧を行なえばオリンピックに傷が付くことを、当局は恐れているに違いない。しかし、すでに十分に傷付いていることを、中南海は認識しているべくもなかろう。
ダライラマの亡命先のインド政府ですら、中国との友好政策を取っている最中にチベットの反政府運動を煙たがっている現状がある。今回の暴動は、孤立無援の中で勃発した。しかし、これでチベット問題を中国当局がいかに解決するかを、今後世界の目は注目することになるだろう。弾圧以外に民族政策を知らないかの政府がより柔軟な解決策を打ち出せるかどうかは、大きな疑問符の付く未知数である。

2008年03月16日

Bracing for the big one

Despite a short, tantalising lull in Gaza, a wider war may be on the way

Israel's mysterious air raid in Syria last September may have been designed to show that it is not afraid of taking the Syrians on.
― 去年九月に起ったイスラエルのシリアへの謎に満ちた空爆は、イスラエルがシリアと一戦構えることを恐れはしないということを示すために、計画されたのかもしれない。

中東の政治は、中国や日本の戦国時代さながらに調略と合従連衡の世界である。それゆえ、裏面でどのような外交交渉が行なわれて、どのような外交関係が真実であるのか、外部の観察者からは非常にわかりにくい。
戦国時代流の歴史判断をするならば、中東問題の最大の原因はイスラエルという国がパレスチナを奪ってアラブ民衆のほとんど全てから憎悪を買っていることにはない。むしろ、争いの火種を作っているイスラエルという国が、その争いの大きさに比してあまりにも小国に過ぎることなのだ。もしイスラエルがロシアや中国ぐらいの大国であったならば、中東問題がこれほどもつれることもなかったであろう。アラブ諸国はチベットのごとく、踏みつけられてグウの音も出せずにおしまいなはずだ。
イスラエルは、ガザ攻撃を本気で考えているのか?もしハマスを亡ぼすためにガザに本格的侵攻をしたならば、北のヒズボラが動く可能性を否定できない。ヒズボラは、以前イスラエルが叩こうとしてはかばかしい成果を挙げることができなかった。そこで、ヒズボラの根を絶つためにイスラエルはヒズボラのパトロンであるシリアを叩く可能性もありうる。ハマスやヒズボラは民兵組織であって、一般大衆の中に紛れて作戦するために叩こうとすれば必ず市民の犠牲者が大量に出る。それにくらべてシリア軍はれっきとした国家の軍であるから、イスラエル軍は勝てる自信があるかもしれない。上に引用した記事の一文は、そのような仮説から連想されたちょっとした憶測である。
だがハマス、ヒズボラ、それにシリアまで加えてイスラエルが全面戦争に出たならば、第五次中東戦争になる。これまでの中東戦争では部外者であったイランも、今度は黙ってはいるまい。石油の供給がストップして、世界経済は大混乱に陥るであろう。そのようなリスクを、イスラエルのパトロンであるアメリカが許すであろうか。そもそも中東の大掃除をするだけの国力が、今のアメリカに残っているだろうか。記事は、いくつかのリポートが伝える可能性として、ガザ地区からハマスを排除して多国籍軍による協同統治を敷くシナリオがあるかもしれないと、言及している。イスラエルの再占領よりは、魅力的な案かもしれない。多国籍軍の兵がゲリラによって爆殺されることを我慢すれば、であるが。

Lhasa under siege

Our China correspondent sends an eyewitness report of the continuing crackdown in the Tibetan capital

"TheEconomist"ラサ特派員からの続報である。
現地では、チベット人と回族との緊張が高まっているようである。回族とは中国土着のイスラム教徒のことで、清代まで漢族と区別されていなかったのであるが、中共政府はこれを一民族として認定している。ラサにはこの回族も移住してして、回族のモスクの近辺で火の手が上がったことの復讐なのかどうか、チベット人への報復のうわさが市中に流れているという。
チベット当局は、月曜日までに暴動の首謀者に投降するべしと最後通告を出している。つまり、この暴動は計画的なものであったと当局はみなしているということだ。果たして、収束するであろうか。もし収束しなければ、北京はどうするであろうか。血の弾圧をすれば、EU諸国のうちから五輪ボイコットが出るかもしれない。これからの数ヶ月は、中南海の今後の国家戦略が見られることになるであろう。世界の世論を無視して、経済だけで世界制覇が出来ると思い上がるのか。それとも、国家解体のリスクを犯してでも、強圧的民族政策を修正することになるのであろうか。

2008年03月18日

Bear’s pits

JPMorgan Chase takes over stricken Bear Stearns. Panic is in the air

By ditching its longstanding rule about lending only to commercial banks and extending this facility to investment banks, the Fed is in effect admitting that it faces a different sort of financial system—one in which dealers pose as much of a threat to stability as lenders.
― FRBは、長い間守られてきた商業銀行だけに貸付を行なうというルールを破って、投資銀行にまで保護の範囲を拡大した。これによって、FRBは事実上、別種の金融システムの世界と対決することになった。すなわち、ディーラーが貸付業者と同じぐらいに、システムに脅威を与えるという世界である。

ベアスターンズのベイルアウトで金融業界の破綻危機が去ったと思うのは、おそらく早計であろう。すでに市場は、次の容疑者探しを始めている。レーマンの株価は急落し、メリルリンチにすら疑惑の目が向けられようとしている。
保護しなければならないシステムの範囲が途方も無く広がって行きつつある状況は、このまま金融危機が深まって行けばFRBの対処できる能力をすぐに超えてしまうであろうことを示唆している。デリバティブを取り扱っているディーラーがシステムを脅かす危険があるならば、その対象は非常に広く、かつ暗黒の世界が拡がっている。これまで野放しでやりたい放題やって来たヘッジファンドの闇鍋から、今後いったい何が飛び出して来るかわからない。
政府が金融機関に公的資金を投入する可能性が、次第に高まっている。対象とされる機関の数は、もしかして恐ろしく多くなるかもしれない。そうなれば、空前の規模の税金が金融亡者の後始末のために費消されるだろう。クルーグマンは投資会社Pimcoの代表がフィナンシャルタイムズに寄稿した文の内容について、それをわかりやすい言葉で要約すれば「投資家を救済せよ、家主には何もするな」であろうと批評している。システムを維持するためには、大衆から税金とローンで二重に金を巻き上げて、ギャンブラーたちの懐をもう一度温めよというわけであるか。この政策をアメリカ人民に受け入れさせることは、リンカーンやF.ルーズヴェルトでも難しいだろう。
いったいこの十年間の金融市場の活況でアメリカが得られたものは、何だったのだろうか。レバレッジを効かせたデリバティブとは、言葉だけ物々しいがその正体はただのギャンブルではないのか。そして、ギャンブルだから見かけの華々しさとは裏腹に実は大して儲けていない。この記事によれば、1980年から2005までの25年間で、ミューチュアルファンドの投資家が上げた収益の平均値はS&P500の上昇率よりも5%も下回っていたと統計された。すなわち、ファンドマネージャーたちの平均的生産性は、市場平均以下なのである。彼らの巨額な報酬こそが、バブルであった。パーティーは、終わろうとしている。

2008年03月19日

Aggressive easing

The Fed flexes its monetary muscle. Will it help?

記事の題は"Aggressive"となっているが、市場に言わせればずいぶん控え目なFRBの金融緩和であった。市場は、1%の利下げすら予測していたのだ。
18日、ダウは420ポイントも上がった。月曜日に95円台にまで上がったはずの円は、19日朝現在で99円台。ものすごい投機相場だ。好材料といえば、レーマンとゴールドマンの決算が予想以上に良好であったこと、それだけであった。レーマンが第二のベアスターンズになりそうにないという安堵感が、買いにつながった。その買いが、一日限りのユーフォリアを生み出した。IMFが表明したサブプライム融資での損失は予想の4倍の8000億ドルに昇るだろう、という昨日の警告は、とりあえず明日以降の売り材料として無視された。
相場の流れには、戻し局面が必ずあるものだ。今回の上げは、あまりにも売られすぎた地点からの戻しであろう。これで長期トレンドが反転するかどうかは、疑問である。いまだに住宅市場は暗鬱で、長期の底入れを確約するべきマクロ状況は好転していない。外貨預金を契約するならば、今週初めに買って今週末にでも売り抜けるべきであったな。IMFによるとサブプライム融資での損失は、米国とEUに集中している。金融セクターがほとんど無傷の日本円が、今年半ばにかけて上昇していく可能性は高い。米国当局は、貿易収支を改善するためにある程度までのドル切り下げを目論んでいるに違いない。

Disowning racism

Barack Obama speaks about race

If he fails to keep defining himself aggressively, his pastor’s paranoid and angry comments will let opponents do it for him.
― もしオバマ氏が自らの信条を明確にすることに失敗したならば、彼の牧師が行なった偏執狂的で怒りに満ちたコメントが、彼のライバルに利用されることとなるであろう。

オバマ氏のアドバイザーで20年来の宗教的師匠であったジェレミー・ライト氏が、黒人の苦境の元凶であるとして白人を呪いアメリカを呪う、激烈な演説を行なった。その演説内容が、TVとネットで全米に広まってしまった。間が悪すぎる。アメリカ人は、いまどこまで落ち込むかわからない不況とインフレで、戦々恐々としている。そんなときに、不和を煽り立てる演説を行なうような宗教家の弟子であるオバマとは、一体何者だ?
オバマ氏は、ライト氏の発言を誤りであるとするレトリック巧みな演説を行なった。しかし、長年の師であるライト氏を排除することは、しなかった。誠実の人であるべき彼は、そうするしかなかったであろう。だが、これは彼の選挙運動にとって、痛烈すぎる打撃ではないか。オバマニアは別として、それ以外の中高年層にとってライト氏とオバマ氏との関係は、おそらく最悪の印象を与えることになるであろう。彼は、まだ若い。4年後も8年後も、チャンスはあるさ、、、ちょっと早いか?

2008年03月20日

Wall Street's crises

What went wrong in the financial system—and the long, hard task of fixing it

By 2007 financial services were making 40% of America's corporate profits—while employing only 5% of its private-sector workers.
―2007年までに、金融サーヴィス業はアメリカ企業の40%の利潤を上げていた。しかし、私企業部門のわずか5%しか雇用いていなかった。

ゴールドマンサックスの推計によると、住宅市場の下落による損失の総額は1.1兆ドル。このうち外国資本の持分と保険会社などによるレバレッジされていない投資(つまり、自己資本の範囲内で損失を賄えるとみなされる分)を除けば、アメリカ金融機関の損失は3000億ドル、すなわちGDPの2%程度であるという。これが、おそらく今後公的資金注入によって救済されなければならない額となるであろう。
これまでの金融業界の異常に高かった利潤は、そのかなりの部分が真の生産性ではなくて、単に運が良かったからであった。市場とは、上がる時もあれば下がるときもある。
もし1億ドルの自己資本を持っていて、去年1億ドルの破格の利潤をFXとかLBOとかの危ない投資で上げたとしよう。たまたま、去年は好景気で全ての資産がインフレであった。利潤で上げた1億ドルは、CEOとファンドマネージャーと株主配当で分け取りして、彼らはわが世の春を謳歌していた。ところが今年は資産価格が調整に入って、レバレッジのせいで評価損が増幅してとうとう1億ドルの含み損を抱えてしまった。FRBの投資銀行への緊急融資は、このような会社をつぶさないために行なわれた。放っておけば、自己資本を毀損してこの会社はつぶれるまでである。だがもしつぶれれば、この会社に金を貸していた別の会社までが、巨額の損失をこうむる。そうなれば、核分裂のごとき連鎖反応が起るであろう。
だが、金融界全体で見れば、このような会社が山ほどある。その全てが、レバレッジの効かせ過ぎで、そのうちつぶれる運命にある。そこで、もはや政府が資本なり融資なりの形式で、彼らの毀損した自己資本を底上げしてやらなければならなくなる。おそらく日本が行なったように劣後債や優先株のような条件となるであろう。金貸してやるから、もう一度経営を立て直して返せ、というわけである。
日本の銀行の例では、怒涛の合併によって経営コストを削減し、長年かけてようやく公的資金を大方返済した。日本の銀行はコスト過剰体質であったため、リストラの余地が大いにあった。日銀もゼロ金利を設定して、彼らが貸し借りの利ざやを取れるように支援してやった。
米さんの今後は、どうだろうか。あのCEOやファンドマネージャーの高給は、確かに最大のリストラ可能な分である。しかし、彼らはどれだけこれまでの自分たちの稼ぎが単なる幸運のせいであったと、認識するであろうか。いったい政府から注入された資金を返済するために、果たして奴らが低い報酬でこれまでのような放漫経営を改めて、努力するだろうか。
日本の銀行は、デフレにも関わらずよく政府の資金を返済した。しかし米さんの銀行は、そこまで殊勝だろうか。日本とは違う道で、楽に返済できるコースを熱望するような気がしてならない。― インフレさえ起れば、借りた金の価値などわずかの間に吹っ飛んでしまうのである。今度は政府のインフレで国民が苦しんだ結果であるにも関わらず、奴らはそれを自分の経営努力だと誇るかもしれない。

Trashing the Be