「社長に就任した以上、わたくしは織田信長の道を行くことにする。諸君ら、覚悟しとけ!」
「うーん、まさに本日よりわが社はもう、信長の生涯で言えば安土城を建てた頃まで来ましたなー、はははは。」
「まーまー、まだ今日の今日だし、そんなにオダテなくても。うはははははは。」
「いや、京より尾張に近づきました。」
日本語はジョークに向かない言葉だ。決して笑いの才能がないわけではなくて、ありふれた通常の語りからウィットで外す、という寸鉄人を刺す笑いの形が日本語の伝統としてないのだ。だからスピーチも面白くない。ニュースキャスターがその語り口のままジョークをしゃべって笑えるのが英語、笑えないのが日本語だ。日本語の笑いの形は、漫才や落語のようにしゃべくりのうねりの中で次々に言葉をたたみかけるところから出てくる。だから笑いは寄席の中に閉じ込められるか、あるいは公的なタテマエ空間から遠く離れた市井のご隠居熊八おばはんの会話の中に沈みこむ。国会や国主催のパーティー空間に日本語を使った笑いはないのである。自分でも上で下手なジョークを作ってみたが、漫才みたいなインフォーマルな語りを混ぜ込まないと全然ギャグが立ってこない。
かんたてたをとめのことをうがちききちがうをとこのめとをたてたんか
これは私のサイトのホームページに載せている自作の回文である。日本語はアルファベット形式で、しかも一文字一音節だからこういう言葉遊びがしやすい。
いけいけやいけいけいけやいけいけやいけいけいけでいけいけいけな俺(20歳の自分)
逝け逝けや逝け逝け逝けや逝け逝けや逝け逝け逝けで逝け逝け逝けな俺(今の自分)
いかん、自分で書いていてだんだん落ち込んできた。ただでさえヒット件数が少なくてブルーなのに。
さて、海外で有名なコメディアンと言えば、90年代以降では"Mr.Bean"のローワン・アトキンソンなんかだろうが、70年代ごろは何といってもモンティ・パイソン Monty Python だったのだろう。日本でも(私は見たことがなかったが)吹き替え版がTV放映されたりして、今でもマニアが多いようだ。ジョン=クリーズ(日本語版吹き替えは納谷悟朗)、グレアム・チャップマン(同、山田康夫)、テリー・ジョーンズ(同、えーと、、誰だっけ?)、マイケル・ペリン(同、青野武)、エリック・アイドル(同、広川太一郎)、それにテリー・ギリアム。 私は彼らが製作・出演した映画『人生狂騒曲』 Monty Python's The Meaning of Life をたまたま見て、あまりのバカバカしさにハマッたのが彼らと遭遇した始まりでした。その後『ライフ・オブ・ブライアン』 Life of Brian も見たし、PCゲーム(なのか?)の『モンティパイソンのホーリーグレイル』 The Holy Grail をやったりしたから、半端ながらいちおうのパイソンフリークだ。だが、ビデオでTVシリーズ(英語版)も見たけれど、映画ほどのインパクトはあまり感じなかったな。
彼らの笑いの分析は須田泰成氏の『モンティ・パイソン大全』(洋泉社)に余すところなくなされているから、この本に付け加えるべきことなどほとんどない。ただ、彼らの出身地イギリス(テリー・ギリアムだけはアメリカ人)のベタベタな内輪向けギャグが極めて多いことは言ってもよいかもしれない。どうして何かにつけてスコットランドがバカにされるのか、フランスが嫌みったらしく戯画化されるのか、アッパークラス Upper class がからかわれるのかなどは、「まあ、そんなものなんだろう」と半分納得して観るしかない。だから日本人の私が観てもおそらく半分ぐらいしか笑いのツボがわかっていないんだろうが、それでも笑えるものは笑えるのである。外国人が笑えるギャグは、本物だ。彼らに限らずイギリス人のジョークのセンスはどこから来るのだろうか。
ユダヤ人が無類にジョークがうまいのは、おそらく自分のいる土地やシチュエーションが放浪の民の運命として「仮の宿り」であることを余儀なく意識させられるため、今,自分が生きている世界を一歩引いた視点から眺める目が鍛えられているからななのだろう。自分の生活をあの世の世界のために無視したならば、それは「信仰」となってジョークが発生しようがないが、この世にいながらこの世に完全に帰属できない、といった現実からつきつけられた違和感が彼らの精神を柔軟なものにしたのだろう。チェコ在住のドイツ語で書くユダヤ人、F.カフカ F.Kafka の深刻なようで深刻でない、ユーモラスなようだけど実は恐ろしく深刻な絶望であるといった日本人にはわかりにくい感覚の源も、「状況が自分を安定させない」というユダヤ人のシチュエーションからにじみ出たものなのだろう。自分はドイツ語で書いているけれどもドイツ人ではない。いったい誰に向けて書いているのだろうか?
ひょっとしたらイギリス人のジョークのセンスは、知的洗練さが原因とかいう以前に、神からこんなヘンテコな土地を与えられたことに対する不条理を逆に楽しむところから発生しているのかもしれない。まさに「天を楽しむ」という意味で「楽天」的だ(「楽天」の本当の意味は、孟子のこの章を参照してください)。晴れること少なく、霧が出たら手をかざした先すら見えないこともあるという。山はせいぜい丘程度、土地は氷河時代の残滓で大して肥沃でもなく、地ワインも生産できない。イタリアとかと何て違うんだ。「こんなしょぼくれた島を豊かな土地に変えた我々は、やっぱり偉いんじゃないか?」「、、、そこに連れていって努力せざるをえないようにしたのは、いったい誰の力だ?」
今回『イチオシ』で取り上げる映画は、テリー・ギリアム監督の作品である。ギリアムはモンティ・パイソンの中で唯一のアメリカ人だ。パイソンのコメディでは脇役に留まり、主に間に入る不可思議なアニメーションの製作を行っていた裏方的メンバーだ。パイソン解散後は映画監督として頭角を現し、『未来世紀ブラジル』や『バロン』などの快作を作った(だが興行成績は思わしくないようだ)。
イギリス人ならぬアメリカ人だからだろうか、映画ではニューヨークを美しく描きすぎる。それがイギリスとアメリカの微妙な違いなのかもしれない。
≪ 今回のイチオシ ≫
『フィッシャー・キング』
The Fisher King
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私はあまり映画に詳しくない。映画を観るのも好きではない。一時期無理してヌーベルバーグなど観ていた時期もあったが、ゴダ−ルの『万事快調』 Tout va bien とルイ・マルの『地下鉄のザジ』 Zazie dans le métro 以外印象に残った映画にお目にかかれなかった。
そんな中で、自分として個人的に「これはいい!」(本サイトのコンセプトだ)と思えた1本は、テリー・ギリアム監督のあまりぱっとしないこの作品だ(1991年作品、主演ジェフ・ブリッジス、ロビン・ウィリアムズ)。
ロビン・ウィリアムズはギリアムの前作『バロン』 The Adventure of Baron Munchhauzen でもチョイ役で出演していたから、二作連続の出演だ。
筋はわかったようでわからない。途中でロビン・ウィリアムズ扮するパリーのイメージに出てくる赤騎士の姿は、はっきり言ってモンティ・パイソン時代の映画『モンティパイソンのホーリーグレイル』の中のマヌケ騎士、ブラックナイトの内輪パロディだ。だから、『ホーリーグレイル』の元ネタであるアーサー王の聖杯伝説がこの映画の下敷きになっている。映画のタイトルの『漁師王 』 The Fisher King というのも伝説の中に出てくる傷ついて苦しむ王のことだ。アーサー王配下の円卓の騎士パーシヴァル(パルジファル)の伝説に関わっていて、ワーグナーの楽劇『パルジファル』 Parsifal では、ティトレルとアンフォルタスの親子がこの漁師王のことを指す。話のバリエーションはいろいろあるようだが、中心のテーマは神聖な聖杯とそれによる傷の癒しだ。
そんな難しい背景のある映画だが、じゃあそれを知らなければダメな映画なのかというと、そうでもない。テーマは至って簡単だ。この中で癒されるのは、ズバリ心の傷なのだ。ジェフ・ブリッジス演じる売れっ子パーソナリティー、ジャックの発言が原因となってパリーは傷つく。パリーが傷ついたある悲惨な事件が原因となって、ジャックは栄光からすべり落ちて傷つく。二人は偶然に会い、互いが何をしているのかをよく気付かぬ間に、やがて互いが互いの傷を回復させることに成功する。奇跡が起きたのである。これが狂気の中のパリーがジャックに託した「聖杯」(実際は大富豪のトロフィーだが)奪取の使命がなした効能なのだろうか。傷を癒すのは聖杯そのものではない。互いが互いのためを思う、心の高貴さが癒しを生んだのであろうか。何とでも解釈できそうだが、全てを一本に解釈できないのが逆に私にとってこの映画の魅力となっている。
変な人がいろいろ出てくる。不器用でものも上手に食べられないリディア(アマンダ・プランマー)、変の極致のホームレス(マイケル・ジーター)。全体にこの映画はずれた人たちが中心になっている。パリーやホームレスのように、狂気の者も沢山出てくる。それらがみな交流しあえることなど夢物語だろう。しかし、ギリアムはこの映画で交差だけはさせる。交差すれば、全ての物語のきっかけを作った悲惨な事件も時には起こることになる。だがリディアとパリーがガールフレンドになるようなことも時には起こることもある。
だから、この映画のテーマソング "How about you" は自分の好きなものを言って、「あなたはどう?」と問い掛けるソングである。好きなものがある。問いかけだけはしたい。でもそれがいい結果を産むかもしれないし、産まないかもしれない。
I like New York in June, how about you? 六月のニューヨークが好き、君はどう?
I like Garschwin's tune, how about you? ガーシュウィンの曲が好き、君はどう?