雪のこと、何かいふべし - 東山
雪がうきうきするぐらい降った、そんな朝。私はある人に言伝てあって、手紙をやったんですよ。しかし雪のことについて、書きそびれてしまった。そうしたら返事が帰って来て、こう書いてあった。
― 「この雪、いかが見るか?」という一言すら、書かれていない。そんな無粋なお方のおっしゃることは、聞きたくない。返すがえすも、貴方の御心、情けなし。
これは、やられた。感心した。
今はなき、とある人のことです。これだけのことだけれど、忘れがたい思い出ですよ。(徒然草 第三十一段を訳す)
今年は、雪の当り年のようだ。豪雪地帯では雪は忌むべきものだが、京都ぐらいでは上の兼好法師の回想にも見られるように、雪はたいていおもしろく眺められるものだ。せいぜい、滑って転ぶことだけには注意しよう。