ブロンド(Blond,女性形はBlonde)は、ある範囲の種類の哺乳類で見られる、暗い色素のユーメラニンの割合が低くて明るい色素のフェオメラニンの割合が高いことによって特徴付けられる毛の色のことであり、その特徴は赤毛 red hair と共通したものである。明るい茶色から薄いブロンドまで、様々なブロンドの色合いの毛が世界人口の1.8%よりわずかに低い比率の人々で見られる。結果として表れる見かけの色合いは、さまざまな要因によって左右される。しかしながら、その色合いは必ず何らかの「黄色っぽい色」の範疇に入る。色素がまだらに少数しか分布しないことによってできる非常に薄いブロンド色から、赤っぽい「ストロベリー」ブロンド色(これは、ジンジャーgingerとも呼ばれるあまり見かけない髪の色である)、あるいはより多くのユーメラニンを含んだ茶色がかった金色のブロンド色まである。哺乳類の中でブロンドの毛が見られる種の中には、ヒトやある種の犬・猫が含まれる。
ブロンドは、青い瞳と並んで地球上のほとんどの種族で見られない特徴である。たいていの人類は、黒い髪の毛に黒か濃い茶色の瞳をしている。それが一部の白人にしか(後述のように、厳密には誤りなのであるが)見られず、しかも白人の欧米人が世界を征服したものだから、ブロンドは多くの人類に羨望と、嫉妬と、あるいは逆恨みの感情を掻き立てるシンボルとなった。Wikipediaはその語源に続いて、ヨーロッパでだけブロンドが繁栄した理由についての仮説を述べている。これは本当なのかね?
語源、スペリング、文法"blond"という形容詞は、比較的近年になってフランス語から英語に入った借用語だ(伝統的な英単語では、"fair-haired"、 "flaxen"、あるいは "tow-haired"と呼ばれる。また"towhead"と言えば、ほとんど白色の非常に薄いブロンド髪のことを指す)。一方、そのフランス語は、中世に起源を持つ。慎重に英語を書く人は、今でも男性形の"blond"と女性形の"blonde"とを使い分ける。そしてこのようにこの語は、英語で男性形と女性形とを持っている数少ない形容詞の一つなのである(同じくフランス語起源の似たような髪の毛関係の言葉もまた、たとえば「ブリュネット(栗色)」 brunet(男)/brunette(女)のように、超オーソドックスな英語では"blond"と同じ用法を取る)。だが、英語を話す人々の多数は、しばしばフランス語の「性」の区別の文法など気にしないでどちらかの形を使うし、またどちらを多く用いるのかもはっきりとさせないまま使っている。
この"blond"(スペリングは、"blond"か"blonde"のどちらかである)という言葉は、ときどき金髪の色を思い出させる対象に言及する際に、用いられる。たとえば、人形の髪や、薄い色の木材や、ラガービールの色についてなどである。
起源
ブロンドの毛は、どの人種においても自然に現れる。しかしながら、大多数の人類においては、あまりに低率なのでほとんど目に付かない。ある範囲のヨーロッパ人においては、ブロンドの毛はより頻繁に現れる。そのため、ブロンドがヨーロッパ人の特徴であるとの誤った印象が導かれている。
近年の遺伝子情報によれば、人類におけるブロンドの毛は、約11000年前から10000年前の最後の氷河時代に、ヨーロッパで際立って多数を占めるようになった可能性がある。それ以前には、ヨーロッパ人は暗褐色の毛に暗い色の瞳を持ち、世界の他の地域の主要な特徴と同じであった。
どうしてヨーロッパの一部の人間が、このように比較的近年、人類の進化史において急速に、ブロンドの毛(加えて多様な目の色)を高い比率で持つように進化したのか?これは、長い間問われてきた疑問である。もし自然淘汰という通常の進化過程で変化が起ったとすれば、これらの変化は85万年ぐらいはかかったであろう。しかし現代の人類は、アフリカから移住してヨーロッパに到ったのは3万5000年から4万年前である。カナダの人類学者ピーター・フロストPeter Frostは、セントアンドリューズ大学の後援で2006年3月"Evolution and Human Behavior"誌に研究論文を発表した。それによれば、ブロンドの毛は最後の氷河時代に性的選別によって極めて急速に進化したという。この研究によると、北欧の女性は、少ない男性をめぐった厳しい競争の時代にライバルから自分を目立たせるために、氷河時代の末期にブロンドの毛と青い目を進化させた。研究論文の議論によれば、ブロンドの毛は1万~1万1000年前にヨーロッパ地域で食糧の不足が原因で発生した。その頃の北欧においてほとんど唯一の生活の糧は、マンモス・トナカイ・バイソン・馬の群れを追ってさまようことだけであった。そしてそれらを見つけるためには長くて厳しい狩の旅を続けなければならず、多くの男性が命を落とした。仮説が言うには、ブロンドの毛の女性は男をひきつける新種となって交配に有利となり、結果としてブロンドの人数が増えたのである。
ヨーロッパ人といえどもブロンドばかりではないし、ブロンドの髪の人でも年齢によって色は変化する。そして欧米人の間でも、ブロンドに見せかける人が非常に多いのである。
年齢との関係と、体における分布ブロンドの毛は、乳児や子供では普通に見られる。ゆえに、"baby blond"という言葉がしばしば非常に薄い色の毛に対して使われるのである。赤ん坊は、中国人のような大人ではめったにブロンドの毛が見られな集団においてすら、ブロンドの毛を持って生まれることがある。もっとも、そのような毛は急速に抜け落ちてしまうのであるが。ブロンドの毛は、年を取るにつれて色が暗くなる傾向がある。ブロンドの毛を持って生まれた子供たちも、多くは十代になる前か十代半ばで褐色あるいは黒色の毛に変わってしまう。
ブロンドの人の体毛は、やはりブロンドである。しかしながら、頭髪に比べて体の末端部分の毛はもっと濃くて、褐色であるかもしれない。一方、うぶ毛の色は非常に薄く、あるいは透明かもしれない。ホクロやへそから生える毛は、暗い色をしているかもしれない。
人類の間における分布
ブロンドの毛は、特にスカンジナヴィア人においてよく見られる。金髪は、北欧人のステレオタイプ的な特徴である。とりわけスカンジナヴィアや他のノルディック諸国において見られるために、非常に薄い色の毛はしばしば「ノルディック・ブロンド」Nordic blond と呼ばれる。ブロンドの毛はスカンジナヴィアやフィンランドで他の国より多いのであるが、こういった地域で本当のブロンドがどのぐらいの割合でいるのかどうかについては、髪を染めている人の割合によってぼやけてしまっている。たとえばスウェーデンはノルディック諸国で最も面積が大きく人口の多い国であるが、この国は男性においても女性においても過酸化水素 hydrogen peroxide などの薬品を使って自分の本来の髪の色を「ノルディック・ブロンド」に変えている人の割合が最も多いのである。スカンジナヴィアにおいて普通な毛の色は、非常に明るい色から濃い褐色までに渡る。しかしながら、黒髪や赤毛もまたいるのである。肌色の淡いコーカソイド(白人)ならば、肌の色と毛の色とがさほどのコントラストを成さないので、(髪を染めていても)ナチュラルブロンドとして通ってしまうこともありうる。古典的な分類としてのブリュネットに属するのにナチュラルブロンドとして誤って受け取られている人には、たとえばパメラ・アンダーソン、デヴィッド・ベッカム、ブラッド・ピット、ユーマ・サーマン、マリリン・モンローなどがいる。しかしジョニー・ディップ、ダン・ペトレスク、ジョー・ペッシ、ジェニファー・ロペスなどは、ブロンドとみなされることはない。なぜならば、彼らは時々髪をブロンドのように見せることもあるのだが、肌の自然な色合いと眉毛などの体の他の部分の毛の色によって、ブロンドと判定させることを妨げるからである。ヨーロッパ以外では、ブロンドの毛は中東や南アジアでもっと低い割合で見られる。それらの地域では、ペルシャ人、クルド人、イランに住む他のイラン系民族、アフガニスタン及びパキスタンのパシュト人及びタジク人を除けば、きわめてまれである。一般に、ヨーロッパ人におけるブロンドの毛は、遺伝子的に薄い色の目(青、緑、明るい茶色)に加えて淡い肌の色(ときどき、そばかすが浮かんでいる)と相関している。強烈な太陽光線はまた髪の毛の色素を多少なりとも薄くして、ブロンドの人々に対して特に子供の頃にそばかすを作らせる。オーストラリアアボリジニは、特に大陸の西部から中央部において、黄褐色の毛を持っている割合が相当に高い。この特性は子供と女性に顕著に見られて、年を取るにつれて毛の色はもっと暗い褐色に変化していく。
文化的な反応暗い色の髪を持った人間集団の中には、歴史的に薄い色の髪に興味を持ち、あるいは模倣しようとさえした人々もいた。ローマ人の暗い色の髪の女性たちは、金髪・赤毛・暗い色の髪を持ったケルト人やゲルマン人の部族民や、彼らと接触のあったギリシャ都市民の毛から作ったかつらを購入することがあった。現代の西洋文化においては、髪の色を染めることは特に女性によって普通に行なわれている。染めた毛は、紫外線に当てればナチュラルブロンドの毛と区別できる。どっぷりと染めた毛は紫外線によって光るが、ナチュラルブロンドの毛は光らないのである。暗い色の毛を持ったバイキングたちは、しばしば石鹸のようなもので毛をブロンドか赤色に染めた。
しかしながら、気をつけるべきことは、金髪を持った人は時々もっと暗い色の毛を望むことがあるということである(たとえばウィノナ・ライダーは、ナチュラルブロンドであるが髪を黒く染めている)。世界の異なった文化においては、しばしば特定の種類の髪の色が最も望ましいとみなされる。
ある調査が示唆するところによれば、金髪は、とりわけ子供において、他人にとって「まるで親のように愛して庇護してやりたい」という感情を引き起こすという。この感情と子供との相関関係は、「ブロンドは知性に乏しい」という西洋に共通のステレオタイプにも原因があるのかもしれない(たとえばフィクションのキャラクターのクリッシー・スノウなどは、ステレオタイプ的な「まぬけなブロンド」である)。このイメージが大衆化するのを助けた20世紀の二人の著名なセックス・アイコンは、マリリン・モンローとジーン・ハーロウであった。モンローは、子供のときはブロンドだったが後に暗い色の髪になった。いっぽうハーロウは、ナチュラル・アッシュ・ブロンドであった。この二人は、私的生活では知的な人々であることが知られていたにもかかわらず、映画の中ではしばしば「古典的な」まぬけのブロンドとして描かれた。ジーン・ハーロウは、西洋文化において普通の女性が髪を意図的にブロンドに染めても娼婦であると感じられずに通ることを広めた人物であるとして、しばしば評価される。
20世紀初期において、ブロンドの髪は時にアーリア支配人種と結び付けられて、マディソン・グラントやアルフレート・ローゼンベルクのようなノルディシストNordicistsによって宣伝された。もっとも、人種優越主義者supremacistsたちが考える「アーリア人」の中には、茶色か暗い色の髪のほうがより一般的であったし、今もそうなのであるが。
ブロンドの髪の人の特徴をより正確に表すために、多くのブロンドのサブカテゴリーが作られている。例を挙げれば、以下のようなものである。プラチナ・ブロンドPlatinum Blonde(ほとんど白色。ナチュラルヘアとしては、子供にしか見られない)、トウヘッドTowhead(プラチナ・ブロンドと同じ)、サンディ・ブロンドSandy Blonde(砂の色と同じ)、アッシュ・ブロンドAsh Blond、ダーティー・ブロンドDirty Blonde、ディッシュウォーター・ブロンドDishwater Blonde(この三者はおおむね同じ。暗いブロンドシェードを表す。ただし、後二者は侮辱的意味合いを帯びている) 、ゴールデン・ブロンドGolden Blonde(より明るくて、金色がかっている)、ボトルド・ブロンドBottled Blonde(要は、[化粧品のビンを使って]髪を染めた人のことである)、ストロベリー・ブロンドStrawberry Blonde(赤っぽい色合い)、プール・ブロンドPool Blonde(塩素の入ったプールに習慣的に入ると人によって変わってしまう、緑がかった髪)、ヘイジー・ブロンドHazy Blonde、ゼブラ・ブロンドZebra Blonde(ナチュラルブロンドあるいは褐色の髪がすじ状に混じった、ブロンドあるいはブリュネットの髪。髪のデザインを一部の髪が別の髪を隠すような形に整えて、しかも長時間外の日光にさらされるとしばしば起る。) 。
2002年に、「科学者が『ブロンドは結局絶滅していく』という予測を立てた」と主張するイタズラが世界中を駆け巡った。このイタズラは科学的研究のソースとして、WHOを引用していた。
同じ英語版Wikipediaの"Black hair"の項目を読むと、西洋社会で髪を黒く染めることは、自分がポジティヴでも無邪気でもないことを主張する意味合いを帯びているという。だからエルヴィス・プレスリーは髪を黒く染めたし、フィクションでサタンや悪魔が人間化する際には、たいていの場合彼らは黒髪である。逆に言えば、派手なチャンバラで魅せる映画やコミックのアクション系主人公には、結構黒髪が多い。スーパーマンのクラーク・ケントも、ショーン・コネリー扮する007のジェームズ・ボンドも、黒髪である。一方アメリカンジョークでまぬけなブロンド娘についての"Blond joke"というジャンルもあるように、ブロンドは西洋で女性美と強く結びついているためか、ブロンド娘は「魅力的だが頭の弱い女の子」といったステレオタイプがあるようだ。「ヒーローは黒髪、ヒロインはブロンド」というのが、西洋のステレオタイプなのかもしれない。ヒトラーがあれほどまでに「金髪・青い目」のノルディック人種の価値を説いたにも関わらず、自分自身は黒髪であった。それはやはり、ブロンドには女性的な文化的意味合いが暗黙のうちに含まれていて、破壊的英雄のカラーとしては黒髪がふさわしかったのかもしれない。
どうでもいいことだが、日本の漫画で日本人と西洋人の混血児で金髪青い目の女の子が出てくることが、(あまりにも)多い。使いやすいキャラを作る格好の設定だからだろう。しかしながら、ナチュラルでそのような混血児が生まれることはおそらくない。青い瞳の色は劣性遺伝子で、相方が二本とも暗い色の瞳の遺伝子を持っていたら(たいていの日本人はそうである)、100%子は暗い色の瞳を持つ。髪の毛の色を決める遺伝子はもう少し複雑だが、片親が黒髪の東洋人でブロンドの子が生まれる可能性は、まず考えられない。西洋で両親とも黒髪なのにブロンドの子がいたりするが、あれは両親共にブロンドの先祖がいて遺伝子を隠し持っていたからなのだ。つまり、漫画などで出てくる金髪・青い目の混血の子は、おそらくコンタクトをつけて髪を染めているのであろう。