以前香港のレストランでこの宮保鶏丁を食べたときには、鶏肉のきれいな炒め上がり方に感心したものだ。中華料理はやはり火が基本であって、下味を丁寧に付けた素材を高温で一気に炒め上げることによって、カラリとしかも肉の味がギュッとつまって仕上がる。中国人は昔から高温の火を出すことに執念を燃やしてきた。強い火力によって土が変性してガラス状の構造になる磁器は、一説によればすでに3000年前の殷代には原型があったという。その磁器の芸術が大きく開花したのが宋代(10C~13C)であって、この時代は同時に料理に「炒める」という技法が定着した、現代の中華料理の世界を拓いた画期的時期でもある。中国では漢代にはすでに華北の森林があらかた伐採されてしまい、世界の他の古代文明世界と同じく燃料や材木に極めて不自由するようになっていた。しかし中国では宋代になって石炭を燃料として使う習慣が普及するようになった。この石炭の火力によって煉瓦を焼き、また鉄や陶磁器を大量に作ることが可能となったために、中国はギリシャやメソポタミアなどとは違って再び活気のある都市社会が復興したのであった。中華料理に不可欠な鉄の中華鍋と高温の火も、この時代に始まったのである。不死鳥のような文明だ。しかし、21世紀の現代、そろそろ石炭の過剰使用はやめたほうがよい。
(以下は、1人前の分量)
鶏もも肉 200グラム 《下味》しょうゆ 小さじ1、酒 大さじ1/2、塩 小さじ1/4、こしょう 少々、溶き卵 1/4個分、かたくり粉 大さじ1 |
カシューナッツ 1掴(つか)みぐらい |
ピーマン 1個 |
唐がらし 2本 |
しょうが 1かけ |
ねぎ 根元を10cm |
しょうゆ 大さじ2、砂糖・酢 各大さじ1、酒 大さじ1、こしょう 少々、中華だしの素 1ふり、水 大さじ2 |
水溶きかたくり粉(かたくり粉と水を等量) 大さじ1 |
ピーマンは乱切り、ねぎは1cm幅のぶつ切り、しょうがは薄切りに。唐がらしは種を抜いておく。
鶏肉を2cmの角切りにして、下味をからめていく。まずしょうゆ等の調味料を振ってよくからめ、その上に溶き卵を注いでからめる。最後に、かたくり粉を全体にまぶす。三層の膜を肉に作って、旨みを封じ込めるのである。
鍋を強火で焼き多めの油を入れて、鶏肉を先に炒める。表面が十分焼きあがるまで、まんべんなく炒める。炒め上がったら、取り出す。取り出したらいったん火から鍋を外し、鍋を冷やす。
火にかけていない冷えた鍋に、油大さじ2と唐がらしを入れる。そこから再び鍋を弱火にかけて、混ぜながらゆっくりと唐がらしの辛味を油に移す。
唐がらしが黒ずんできたら、ピーマン・ねぎ・しょうがを入れて炒める。
香味野菜が大方炒まったら、ここで強火にしてさきほどの鶏肉を投入する。さらに調味料を加えて、全体にからめる。最後はカシューナッツを散らして、水溶きかたくり粉でまとめて完成。
カシューナッツの代わりに、ピーナッツやクルミなどでもOK。