洛東の街中に隆起する神楽岡(かぐらおか)。見晴らしよい結構な小丘陵で、当然のごとく多くの寺社や歴代天皇の陵墓、それに旅館などがひしめき合っている。吉田兼好の家である卜部(うらべ)吉田家は、最高峰である吉田山を神域とする吉田神社の社務を代々努める家であった。吉田家にはもう一つ藤原吉田家があって鎌倉時代以降朝廷で重きをなしたが、この家もまた吉田山の近くに邸宅を構えたためにこの家名を名乗るようになった。
坂道の上から、見下ろす。左手に真如堂(真正極楽寺)の塔と伽藍が見える。背後には東山。真如堂は王朝時代からの歴史を持つ寺院で、この神楽岡附近で繁栄と衰微を繰り返してきた。再建されて現在の位置に建ったのは、元禄六年(1693)のことだ。元禄の昔の時代にもまた、この地点に立てば山と寺院を見ることができたのであろう。それ以降、街並みの形は時代と共にすっかり変わった。だが、過去の歴史が一掃されたわけではなくて、こうして風景の中に降り積もっている。この坂からの眺めは、京都の街ならではのひそかな絶景。