一月は世界的に見ても観測史上最も暖かい冬であったという。一年限りの現象なのか、地球温暖化の傾向が如実に現れたのか。とにかく、ここまで真に寒いと感じる日が、ここ京都でもほとんどなかった。多くの今後の心配事を残しつつ、御所の梅園では早くも花盛りが近づいている。
蕪村には、梅を歌った秀歌が多い。
うめ散(ちる)や螺鈿こぼるる卓(しょく)の上 ― 安永七年十二月
しら梅の枯木に戻る月夜哉 ― 明和七年以前
古今の引用を縦横に張り巡らせる技巧派詩人の蕪村にとっては、情緒を掻き立てる桜の花よりも知性的に観賞できる梅の花のほうが彼の作風によく合っている。上の句の十二月というのは、もちろん旧暦のこと。
白梅や墨芳しき鴻鸕館(こうろかん) ― 安永四年一月
鴻鸕館とは、王朝時代に外国の使節を接待するために作られた官舎。唐の制度をまねたものだ。とはいうものの、日本の朝廷は次第に外交を行なわなくなったので、その役割はすたれていったのであるが。梅はもともと中国から輸入された、唐物の花である。だから、この句のように異国情緒と対比させても様になる。この句などはあえて蕪村の意図に逆らって、「白梅」を漢語で「パイメイ」と読んでみたい。
そういえば、この御所の中にも、最近新たに迎賓館が作られた。建物を作っても、人が来るとは限らないのであるが、、、
ニ(ふた)もとの梅に遅速を愛す哉 ― 安永三年
桜は、一斉に咲いて一瞬で散る。だから、情念の花である。いっぽう梅は、ちらほらと咲き始めて長く楽しめる。紅梅のつぼみも、なかなかに風情がある。だから、二本の枝が競って咲く、その遅速の樣を愛することができる花だ。あと一週間で、旧正月である。中国・台湾・ベトナムなどでは、これからが最大の祭りのシーズンとなる。まさしく梅は、新春の花なのだ。