残金二塊錢
対岸の八里から淡水に戻って、ようやく朝から何もまとまったものを食べていない事実を捨て置けないほどの空腹感を感じた。メインストリートの客家料理店に入った。台湾ビールを一本と、「客家煎豆腐」に「山苦瓜炒鹹蛋」を注文した。しめて、330元(約1150円)。
客家煎豆腐は、揚げた豆腐とネギをコクのある中国醤油とスープで煮込んだだけの、シンプルな料理。シンプルだが、なかなかに味わい深い。もう一皿の山苦瓜炒鹹蛋は、ゴーヤーとつぶし卵を塩とスープの調味料で炒めたものだった。こちらもあっさりしていて日本人向きの味わいだったが、ゴーヤーが苦味がなくなるほど茹でてあった。私としては、ゴーヤーの苦味が残っていたほうがよかった。
一日目にバスの中で両替したっきりの台湾元だったので、もはやほとんど手元に残っていなかった。コンビニで珍しい台湾製の「轉蛋」(ガチャガチャのこと。この会社の製品)を見つけて一回遊んでみたりして(だが高い!一回120元!)、さらに金がなくなってしまった。旅行記では書かなかったが、朝方芝山岩に行く前に、民権西路駅で降りて伝統劇団の「TAIPEI EYE」の今夜のショーのチケットを買っていた。今さら新たに両替をする気にもならないので、観劇以外の時間は残った金だけで時間を過ごすことに決めた。そういうわけで、プロヴィンシア城(紅毛城)にまで歩いて行ったものの、入場料がないので入らなかった。下は、前の門から撮った紅い城の影。
残金は、100元も残っていない。再び地下鉄に乗って台北に戻り、暑いからアイスティーを買ったら、残り37元。民権西路駅から少し歩いた中山北路にあるビルの中に、TAIPEI EYEの劇場がある。中で涼ませてくれるかと期待して6時前に行ったのであるが、結果はノー。開演30分前の7時半にならなければ、階上の劇場には入らせてくれないという。ビルの1階のフロア―には座れるような施設がなにもないので、外に出た。
まだ2時間近くもある。仕方がないから、近くのケンタで時間をつぶすことにした。この台北旅行で最初で最後に入ったファストフードである。まずコンビニに行って、10元で「中国時報」(台湾の最有力紙のひとつ)を買う。次にケンタに行って、コーラを頼む。25元。これで、残り2元となった。地下鉄にもバスにも乗れない。観劇後は歩いてホテルまで帰ることを、決意した。
そういうわけで、これが最後に日本に持ち帰った二塊錢(2元のこと。スラングで現金のことを、こういう言い回しで言う)である。