麻婆豆腐に市販のびん入り山椒をかけてみても、全然辛さが出てこない。日本料理の山椒と中華料理の花椒(ファージャオ)とは、別のスパイスだと考えた方がよさそうだ。日本料理で辛さを出すスパイスと言えば唐がらしに山椒、辛み大根にわさび、それに通好みならば蓼(たで)あたりであろうか。いずれも日本製のスパイスは料理の控え目なバイプレーヤーであって、風味自体が主役となるような出しゃばり者たちではない。あくまでも料理自体のアクセントの域を出ない範囲にとどまっているようだ。日本料理は魚そのものが持つうまみを賞味するものであって、その上に完成された調味料であるしょうゆと、だしのうまみが加われば、わざわざスパイスに主役になってもらわなくともよいのであろう。だが中華料理の唐がらしや花椒は、はっきりと料理の主役の一員である。淡泊で味わいの少ない麻婆豆腐などは、これらのスパイスの痛烈な辛みを効かせてはじめて料理としての味わいが出る。唐がらしの舌を焼く辛さは、漢語(中国語)で「辣」(ラー)と表現される。いっぽう花椒の唇をしびれさせる辛さは、「麻」(マー)と表わされる。いずれも日本語では一語で表現できないものだ。スパイスへのこだわりは、日本料理よりも中華料理のほうがずっと上回っている。素材のうまみというものを絶対的に尊重するするかそれとも料理の一部として処理するかの違いがそこに現れているに違いない。大陸中国は広い。内陸部に行けば、新鮮な魚などまずありつけない。そういった土地柄で発展していった料理だから、加工法やスパイスに工夫を見せるようになったのであろう。
(以下は、大1皿分の分量)
木綿豆腐 1丁 |
豚ひき肉 100g |
青ねぎ 1本 |
にんにく・しょうが 1かけ |
にんじん 太いところを3cm |
唐がらし 1本 |
豆板醤 大さじ1、みそ 大さじ1 |
しょうゆ 大さじ1、かきソース 小さじ1、酒 大さじ1、砂糖 大さじ1/2、中華だしの素 小さじ1/2、水 カップ3/4 |
水溶きかたくり粉(かたくり粉と水を等量) 大さじ1 |
花椒、油 |
火をかけない鍋に油大さじ1と唐がらしを入れる。ここから弱火で火をゆっくり入れて、唐がらしの辛さを油に移す。
唐がらしの色が黒くなったら、強火にしてひき肉を炒める。肉がポロポロになって表面に油が浮くまで、しっかり炒める。
にんにく、しょうが、豆板醤を入れて、香りが出るまでよく火を通す。さらにみそを加えて炒める。
水に中華だしの素を溶いて、しょうゆ・かきソース・酒・砂糖と共に加える。
煮立ったらにんじんを入れて、さらに豆腐を加えて2~3分煮込む。
豆腐に火が通ったら、最後にねぎを加える。
水溶きかたくり粉を回し入れて、まとめる。
すり鉢ですった花椒をたっぷり上に乗せる。たっぷりとね。うなぎに乗せたりするびん入りの粉山椒では、「麻」の辛みが十分出てこないです。
辛い!ただ辛いだけではなくて、「麻」「辣」の辛みがよく効いた、うま辛味だ。ご飯にかけてもいいし、ラーメンに載せてもうまい。明星の『中華三昧 四川風』に載せると、これがまたうまいんだな。