阪急電鉄から、回答があった。以下に、全文を添付する。ただし、文中に私の本名があるので、その箇所については私のペンネーム「鈴元仁」に変える。
阪急電鉄広報部の**(注:社員名)と申します。 平素は阪急電鉄をご愛顧賜りまして誠にありがとうございます。 先日はメールをありがとうございました。 いただきましたご意見につきまして担当部署より以下のとおりご回答申し上げます。今後とも阪急電鉄をご愛顧賜りますようお願い申し上げます。
平素は阪急電鉄をご利用いただきましてありがとうございます。 早速でございますが、いただきましたご要望につきましてご回答申し上げます。 弊社では、外国のお客様にも快適にご利用いただくため、各駅に掲出しているすべての路線図に英語表記を記載している他、時刻表表題部(行先方面含む)や、時刻表に併設している停車駅案内にも英文字を表記しております。 しかしながら、鈴元仁様よりご指摘いただきました券売機の画面表示に関しましては、現在、英字表記がされておりません。 また、英字を表記するためには券売機のシステムを改造することになりますが、再度改造することになりますと、膨大な費用が必要となりますので、現時点では実施は困難でございます。 今回鈴元仁様にご指摘いただきました点を踏まえ、今後もすべてのお客様に快適にご利用いただけるよう、外国語表記等について検討を進めてまいります。 なお、券売機の操作方法につきましては、弊社のホームページ上に掲載している、英語・中国語・韓国語の阪急沿線ガイドの中でご説明しております。 また、同内容の小冊子が各駅にございますので、ご案内申し上げます。 鈴元仁様には事情ご賢察の上、今後とも阪急電鉄をご愛顧賜りますようお願い申し上げます。 運輸部
そこで私は、以下のl回答のメールを、阪急電鉄に送付した。
前略。Hotmailが自動的に迷惑メールに放り込んでいたため、3月9日付けで回答があったのを、本日まで見逃していました。貴社には、我が不明をお詫びします。
仰せのとおり、貴社の駅表示には、英語・漢語・韓国語が書かれています。
ホームページ上で券売機の操作方法が記載されていること、そして同様の内容の小冊子も配布されていること、それも分かります。
迅速なご回答ともども、少なくとも貴社は決して異質な客、異質な意見を無視しているわけではないこと、それもよく分かりました。しかし。
それでも、私は申し上げなければ、なりません。
異質な文化を背負った客にとって、第一印象はまことにその後の貴社への先入主を形作る、決定的な要因となります。
ホームページに記載してあったり、小冊子を配られたりするご努力は、残念ながら異質な客が貴社のサービスを受けようとする際に真っ先に駆け付けるであろう自動券売機が日本語オンリーであることによって、全て台無しです。
どうして、世界第二位の経済大国の、第二の都市をリードする私鉄である貴社ともあろうものが、外国人でも易々と操作できる自動券売機に英語表示を付けず、調べなければならないホームページや駅員に聞かなければならない小冊子を揃えて満足しているのか、私には分かりません。
貴社につきましては、よく社員をご教育なされて、きっと外国人が迷っても応対できるようにご配慮しておられるかと、存じます。
しかし、この日本全体では、そうでありません。日本人である私は、知っています。
異国の人が困っていても、コミュニケーションが恐ろしいので足早に通り過ぎる。
それが、日本人です。自分だけの世界に閉じこもって、異邦の民への応対は誰かがやってくれるだろうと、高をくくって知らん顔。それが、日本人です。そしてそんな日本人は、自分たちの薄情さ、世界の人々に対する想像力の不足が、己の国を傾けていることに、全く気づいていません。
日本人の性がいまだに対人恐怖症である以上は、ぜひとも冷たいながらも正確な機械に対応させる手段を取った方が、親切と申すべきでは、ないでしょうか。
日本の機械工業は世界一であることを、地球人は皆知っています。
ロボットの自動券売機に、英・漢・韓のみならず、世界中の言語を網羅するガイドをやらせたならば、さすが日本である、さすが日本の鉄道であると、彼らが驚嘆して感心すること、請け合いです。
貴社も、そして我々日本人も、自分たちの長所を生かさず、そして短所に気づいていない。
病根は、深いのです。貴社が日本の鉄道の先覚者たらんとご自負なさるならば、まず率先してなしたまえ。
貴社と、関西と、そして日本国が、万国の言葉に対応する券売システムを持っていることを、よろしく誇りたまえ。
そうして発券された切符の券面に、その国の言葉をもって簡潔なガイドを印刷する。そうすれば、自分の言葉で語りかけられた異邦の客は、きっと感動して、世界の裏側まで貴社の評判を、流すことでしょう。
それが、企業にとって百年の礎となるべきことを、どうか察したまえ。勝手な意見を並べて、申し訳ございませんでした。
貴社が、関西と日本国のためにますます輝くことを、お祈り申し上げます。草々。
私は、かつて官僚の組織の中にいた。
だから、官僚の組織が、外部のサービス使用者からの意見に対して、典型的にどのような対応を取るのかを、知っている。
彼らは、外部から主張を持って怒鳴り込んで来た者に対して、はいはいはいとうなずきながら、ひたすら応対に時間を過ごして、時の過ぎるのを待つ。
そのようなしつこい意見者のことを、組織内の者たちは、「クレーマー」と名付けて、嘲笑っているのだ。
官僚の組織は、上意下達である。下が外部から取り込んだ意見は、決して政策に生かされることはない。組織が動くのは、上から命令が振り下ろされた時だけ。官庁ならば、議会の議員から、要請があった時。その時だけ、官僚の組織は目の色を変えて、巻いたゼンマイを解き放したがごとく、迅速に動くのだ。それが、硬直した組織の姿なのだ。
阪急電鉄のユーザーへの回答は、少なくとも迅速であった。
この企業が、私が知っている官僚の病気に蝕まれていないことを、祈らずにはいられない。