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Korea!2009/02/21その十四

(カテゴリ:韓国旅行記

パク君の横に座って、私は事情を説明しようとした。
私は、書いた。
"I got 2,000W from you,so I'll give 1,000yen to you.Go to exchange store and get wong equivalent to what you gave me. Thank you!"
本当は、ウォンの英語表記は"won"なのであるが、私がこのとき書いた文字をそのまま記す。日本語の感覚では、韓国語で「ン」で終わる単語の末尾が"n"なのか"ng"なのかが、とっさに判断できない。
パク君は、「ちょっと待って。」と言いながら、携帯を出す。
携帯で、英語ができる友だちを、呼び出す。
私と、その友だちとで、長々と会話した。
電話のこちらと向こうの二人とも、英語は話せるとはいっても、大したことはない。
なんとか互いの理解に、到達することができた。
私の出した千円札を、両替してほしいと私が思っていると、パク君は思っていたようだ。
だから、両替は難しい、と彼は何度も言っていた。
パク君は、途中で降りるのだから両替所に行って返すことができない、と言いたかったのであろう。
私は、この千円札一枚が今の相場でだいたい一万五千ウォンに相当することを説明して、残余の分がもし出たとしたら、それは助けてくれたお礼だ、と何とか伝えた。
私は、トラブルの経緯を、彼に説明しようとした。
"convenience store"と書いたが、読んでくれなかった。
「だったら、、、」
私は、この言葉を、漢語で書いた。韓国のたいていのコンビニには、英語と共に漢語が看板に書かれている。
-便利店。
漢字(ハンジャ)では、便宜店(ピョニジョム)。漢語と、ほとんど同じ意味だ。
だが、パク君は、この字を読めなかった。
パク君は若いが、私への対応は極めて丁寧であった。その上、教養があると見て取った。だからしかるべき教育を受けているはずだと私は思ったのであるが、その彼が我ら日本人にとっては簡単に思える漢字を、読めない。
以前慶州で会った白皙の青年は、最近の若者は昔よりも漢字が読めると、言っていた。しかし、現状は残念ながら、漢字で筆談ができる状態にはないことが、彼を通じてわかった。本にも、TVにも、漢字は決して出てこないのだ。新聞には固有名詞にだけ部分的にあるものの、たぶん誰も読んでいないのであろう。
結局、「ファミリーマート、セブンイレブンのことだよ」と私が言って、理解してくれた。この二店は、韓国にもいっぱいある。
パク君は、大宇(デウ)に勤めている。大宇の造船所が、巨済島の玉浦(オッポ)にある。
今日の彼は、ご両親のところに帰省する、途上であった。彼のご両親の家は、釜山の手前の、馬山(マサン)にある。
私は、ガイドブックを開いて、馬山の名所を見ようとした。
だが、馬山の項目が、なかった。
「残念!ないね。」
「なんにも、ない街ですよ。」
パク君は、笑った。
私は彼に、日本に来たことがあるかどうか、聞いた。
「ありません。」
彼は、まだ海外旅行の経験が、なかった。
私は、京都近辺の地図を書いて、説明した。
「ここが、京都だ。今、私が住んでいる。これが、琵琶湖。日本で一番大きな、湖だ。これが、大阪。私の、出身地だ。」
私は、京都のことについて、説明した。
「京都でよいのは、春と秋。春ならば、サクラ。秋ならば、紅葉。この季節が、最も美しい。君も機会があれば、来ておくれよ。私が、案内してあげるよ。」
サクラは韓国語で、「벚꽃」という。
チェさんは発音できるが、私にはまだできない。
「韓国語の発音は、難しいよ。」
私はガイドブックをめくって、韓国の餅を指差した。
「떡、ですね。」
パク君は、声をかすれさせて口を大きく開き、発音してみせた。
「これが、日本語で表すと、トックだ。ぜんぜん、違う。日本語は、発音が単純すぎるんだよ。」
韓国語は、やはり難しい。
発音もそうなのだが、語彙の圧倒的多数を占める漢字に対応する読みを、いちいち覚えていかなくてはならない。
もし、彼らが今でも漢字を使っていたならば、彼らの書き記す言葉は、日本人にとって八割方、わかるはすだ。

-私は、貴方の会社を、訪問します。

-저는 當身의 會社를 訪問합니다.

なるたけ漢字を使うように注意すれば、こんなにも似ている。「當身」が「あなた」であることさえ知っていれば、文法はそっくりなほどに、似ているのだ。惜しい。
だが、もうここまで漢字を捨ててしまった以上、彼らが漢字を学び直すことは、残念ながら不可能であろう。北朝鮮では、もう漢字が一切学ばれていないのだ。
パク君の携帯には翻訳マシーンが付いていて、彼が操作して選択した韓国語の文を、日本語に翻訳できる。私とパク君は、それを用いて簡単なやりとりをした。ちなみに私の携帯は1円携帯で、翻訳機能がない。今回の旅行、翻訳機能のある携帯を持参していたら、もうすこし楽だったであろう。しかし、私は、この時パク君と何度かやり取りしたような、携帯のしゃべるアナウンサー言葉で応対するようなコミュニーケションのやり方に、正直言って嫌悪感を持つ。人間と人間とは、自分の口から発する言葉で語り合わなければならない。
この携帯をもう少し進化させて、携帯のカメラを例えば看板などにかざすと読み取って訳文を表示できる、機能を開発すればよい。そうすれば韓国語の文法と日本語の文法は酷似しているから、同音異義語を修正していけば、かなり近い翻訳に到達できるはずだ。今よりも格段に、街が歩きやすくなる。電車やバス停、銀行や店で、迷うことがなくなる。日本のメーカーさん、あるいは韓国のメーカーさん。開発して、ください。

私は、ガイドブックの料理のページを開いて、言った。
「韓国の料理は、うまいよ。一人旅行だから、プルコギは食べなかったけれどね。スンドゥブチゲ、テンジャンチゲ、ヘジャングッ、ソルロンタン、ナッチポックム、ポリパプ、、、」
パク君は、「ポリパプは、まずいですよ。」と、首を振って否定した。
それから、彼は言った。
「日本料理は、うまい。スシが、うまい。」
彼は親指を立てた。
私は、紙に「寿司」の字を書いた。
私は、つけ加えた。
「それから、ラーメン。」
「あ。ラミョンですね。」
パク君は、うなずいた。
私は「拉麺」という、この込み入った文字を、紙の上に書いた。
私は、この国の人たちが漢字を使ってくれないことの淋しさを、このとき字を書いてまぎらわしていたのかもしれない。
バスの道中は、長い。
パク君が、手元で何か、作っていた。
「どうぞ。」
彼は、私に渡してくれた。

067.jpg

千ウォンを畳んで作ってくれた、ハート。
これを見ただけで、この馬山の一青年が、いかに心の温かい人間であるかが、わかるだろう。