統営の、市外バスターミナルに到着。
地方都市であるが、やっぱり清潔なものだ。
フランスの首都パリは、驚くほどに美しい。
だがあれは、市政府が金をかけて、磨いているから美しいのだ。
特に何もしないで美しい街を持つことが、どれほどの美徳であるか。そして、そのことに気付いていないこの国民が、何と奥ゆかしいことであるか。
某ガイドブックの地図と、正午の太陽の方角を便りに、南へ歩いて行ったが、、、
なんだ、ここは?
うーん、どうやら、目指す方向を、間違っているようだ。
農家の畑で、牛さんが草を食んでいた。
もうちょっと近づいて写真を撮ろうと思ったら、牛さんがこっちを向いて、私をじろりと睨んだ。
綱が付いていないし、角が切られていない。
牡牛だと思うが、去勢されていなかったら、気性が荒いに違いない。
体当たりなんぞされたら、一大事だ。
私は、すごすごと退散した。
韓国の道には、信号のない横断歩道が、ここのようにいっぱいある。
で、そんな道路に、車がびゅんびゅん走っている。
信号がアテにならないことだけは、韓国は香港と同じ流儀である。
学校の裏庭で、中学生たちがサッカーをやっていた。
やっぱり、韓国のナショナルスポーツは、玉蹴り遊びなのだな。
蹴り上げたボールが、勢い余って柵を越えて、私の歩く道の前に、ころころと転がり落ちた。
私は拾って、少年たちに投げ返した。
三人の少年たちは、私に頭を下げて、一礼した。
いっぱんにこの国では、街でも電車の車内でも、日本でならばあちこちで見かけるような、挙動不審で言語不明瞭、群れるだけしか能のない、そんなクソガキどもを見かけることが、ない。
しようが、ないなあ。
警察で、聞いてみるか。
「トンヨンヘヤンギョンチャルソ」。
ゆっくり読めば、統営海洋警察署のことだと、おおかたの見当が付く。
しかし、まだハングルを瞬時に反射神経で判断できるほど、私はこの文字をまだ習得していない。
道路にあった案内板の英語を頼りに、進んだまでのこと。
門衛のにいさんに、英語で聞く。
若いにいさんは、好青年だ。たぶん。表情で、分かる。
にいさんは、答える。
「ストリート。インフォーメーションセンター。クエスチョン。」
???
にいさんは、道の向こうを指差しながら、英単語を繰り返す。
次の瞬間、分かった。
-にいさん、英語の動詞が、使えないんだ。
解釈すれば、「この通りの向こうに、インフォメーションセンターがあります。そこに行って、質問してください。」なのだ。にいさんが、言いたがっていることは。
私もそうだが、日韓の国民は、本当に英語オンチだ。
英語と日韓語は、言葉の発想が、根本的に異なっている。私なんぞ、もう何年も英語を勉強しているのに、今年初めにあったオバマ大統領の就任演説のライブ放送を、半分ぐらいしか分からなかった。美しい英語で、新大統領が演説してくれているというのに。後でニューヨークタイムズのサイトで演説全文を読めば、平易な言葉で語っていることが、明らかなのに。
私は、一笑して、にいさんと握手した。
インフォメーションセンターは、市外バス停のすぐ裏手にあった。
そこで市内地図をもらい、バスターミナルの前にある市内案内図を、いま一度見渡した。
どうして、私が着いた直後に、この案内図を無視したのかが、いまようやく分かった。
、、、もう、何も言うことがない、、、!
どうして、他の施設には英語があるのに、「現位置」(현위치)だけハングルオンリーなんでしょうか。
どうして、"You Are Here"を書き忘れるという一大事を、こんなにも大胆にやらかしてくれるんでしょうか。
しかも、こんな目立たない色で?
この掲示板の英語は、全て韓国人に向けたファッションだということが、旅行者に丸分かりだ。
こんなに、綺麗に描かれた地図なのに、この一点だけで全て台無し。
もう、ここまで来ると、かえって笑えてくる。
これが、「内向き症候群」なのだ。
地図を詳細に調べたところ、私が持っていたガイドブックと、市外バスターミナルの位置が、まるで違っていた。
ここから、統営市街地までは、ガイドブックの地図よりも、ずっと遠い。
私は、腹立ちまぎれに、ガイドブックを道に叩き付けた。
不手際は、日韓双方で、あいこであった。