姜教授は、韓国の数少ない北朝鮮研究者の一人であり、私も金日成の抗日武装闘争の研究で博士号を取り、大学で「北韓[北朝鮮]社会の理解」という科目を教えています。(pp162)
作家の井沢元彦は、「日本は国際平和の実現が国是であるというのならば、どうして日本の大学には戦争研究の学部がないのか?」と言った。言霊のごとく平和がいいねと唱えるばかりで、ではどうやれば国際平和が実現できるのかという真摯な分析と提案を何もしようとしない空想的平和主義者たちへの、揶揄的批評である。平和を実現するために戦争の原因とその防止策を研究せよ、という主張は、残念ながら今の日本ですら主流となっているとは言い難い。
著者や姜禎求(カン・ジョング)東国大教授が、韓国で数少ない北朝鮮研究者であると、著者は書く。
異様な、ことでなかろうか。
今後統一までもプログラムとして書かなければならないことは、韓国として分かりきったことだ。
なのに、韓国では北朝鮮を研究する学者が、数少ないという。
将来の自国に対して、それでは目隠しをして走っていくようなものではないか。韓国は、統一が国是となっている北の片割れに対して、冷静に分析する視点を、現在においてすら何も持っていないのではないか。
これでは、空想的平和主義ならぬ、空想的統一主義ではないか。
連邦制とは、南北相互がすでに確立された体制をそのまま認めながら統一を模索しようという案です。事実、武力によって一方が他方を征伐する戦争による方式を除けば、そして東欧で見たように体制が自滅の道を選ばなければ、われわれに残された選択肢は永久分断の道か、それとも相互の体制を認めた基盤の上で統一を追及する道しかありません。(pp167)
北朝鮮をよく研究している著者ゆえに、上のように主張するより他はない。
吸収併合の道は、北の体制がすなわち消滅するということである。著者は、それが非現実的であると考える。ゆえに、連邦制の将来となる。それは、北朝鮮がすでに提案しているプランである。韓国政府もまた、受け入れるべきであると、著者は言うのだ。現在韓国政府は、いまだに連邦制の選択を取るにまで至っていない。韓洪九氏の将来案は、姜尚中(カン・サンジュン)東大教授の案と、だいたい同じである。姜教授はさらに国際関係も視野に入れて、半島の永世中立化のプランを、併せて提案しているところである。
私は、韓洪九氏の考えは、少々甘いのではなかろうかと、考えている。
南北の人たちは、別民族でも何でもない。
北の平安道や咸鏡道が先祖の故地である韓国人は、いっぱいいる。KoreanWarで南に逃れた、人たちだ。親子や親戚が北と南で別れて暮らしている家族も、無数にいる。両国は血でつながっていて、政治だけが人の流れを押し止めている。
もし、将来に向けて南北が統一されるという展望が、具体的に見えた日が、来たならば。
私は、その次の日に、ハンガリー・オーストリア国境が開かれた89年の事件が繰り返され、ベルリンの壁崩壊に相当するであろう板門店消滅が続いてすぐに起こるのではないか、と危惧する。
それが、人民という正直な生き物の、自然な動きではなかろうか。
それが準備なしに起こったら、どうなるか。
恐ろしい混乱が、半島で始まるのは、目に見えている。
一時の興奮が収まったとき、韓国は二千万人の極貧でビジネスを全く知らない民を、背負い込むという悪夢が現実となったことを、知るだろう。
それに、半島は耐えられるのか?
耐えられなかったら、どうするのか。
そのとき、日本が鎖国して、知らんぷりしていたら、どうするのか。その可能性は、今のままでは高いのでありますぞ。
私は、連邦制には反対である。
結局絵に描いた餅となるに違いない、と予測する。速やかな吸収合併に追い込まれるしか、道はない。
それに、東北アジアは備えていない。
私の憂慮が杞憂であるということを、南北半島問題を扱う研究者の皆様は、どうか示してほしい。
あまりにも、今の韓国は将来に対して、観念的な統一幻想ばかりに終始して、具体的に頭と心を鍛える努力を怠っているように、見えてならないのだが。