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「『世界史の構造』を読む」柄谷行人

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2010年代になって、いまだ思索を進めて理論を深化させている。柄谷氏は、偉大な思想家である。私の評価では、すでに思想家の格として吉本隆明を越えている。格とは、時代に真摯に向き合い続け、マルクスの「全ては疑いうる」という言葉を決して忘れはしないという点での評価である。仕事の内容の高低で言っているのではない。

「今後の世界で有力になっていくのは、武力や金の力ではなく、贈与の力だと思いますね。たとえば、名誉や威厳、恥のような観念が重要になってくるでしょう。つまり、インターナショナル・コミュニティでは、互酬性の原理が強くなっていくと思いますよ。以前なら、GNPや領土が大きいことを自慢していたけれど。」(p110)


まさに、わが国が目指すべきことだ。日本文化は、我々が愛しているから崩したくないのであり、多くの人に愛してもらいたいから広めたいと願うのである。上から目線の日本礼賛など、捨ててしまえ。

交換様式D、統制的理念、高天原。これらを広めるために、私としてできることは何か。

荀子・韓非子は、現実を作った理論家にすぎない。より論理が明快なホッブスやマキャベルリを読めばよいのであって、現代的価値はない。

孟子は、内面の人である。今の時代に必要なのは、内面の陶冶ではない。

やはり、孔子であろうか。

「(山口)民主党の一番大きな問題は、理念や思想のレベルできちんとした土台を作っていなかったということです。」(p352)
大きな理論が砕け散ったから、めいめいが小さな理論でしか世界を語れない、バベルの街。それが、民主党であったか。

「ホップズ的原理、あるいは交換様式Bの拡大であるなら、どんな世界国家、世界政府も、自然状態を克服できないのです。」(p244)
「今はこう考えています。おそらく、新たな世界システムは、部族連合体のような互酬的な原理による社会契約によって形成されるだろう。」(p245)

統一権力による世界政府、は現代の問題の解決への道ではない。

「大陸だったら、民族浄化でDNAさえ残せずに滅びていた民族が、日本列島まで逃げてくると、共存共栄できた。いわば帝国からの逃げ場としての昨日を果たしてきたからだとも考えられる。」(p264)

(島田裕巳)「つまり、現代でも宗教の力は依然として大きなものとして実はあって、そこからなかなか逃れることができない。」(p274)

新自由主義の席巻によって人間がアトム化してしまったとき、他人との具体的な手触りのあるつながりが感じられなくなった。そこに、想像上で、他人と信用(信仰)によって一体感を得ようとする考えが勢いを持つのは、必然である。アルカイダ・オウム的宗教=市場原理主義=ナショナリズム。これらを野蛮として嘲笑う論者は、世界史の趨勢の根にあるものを見失っている、安全な地位から衆生を見下す上から目線の批判者といえようか。