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『世界史の構造』柄谷行人(つづき3)

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「この問題を考えるために、まずブローデルにもとづいて、世界=帝国と世界=経済を区別することから始めたい。これらの違いは、国家による交易の管理があるかどうかという点に集約される。」(p239)

「国家が自立的で独自の意志をもつということは、国家の内部では見えない。そこではつねに多くの勢力が争い、多くの意見、利害、欲望が絡まり合っているからd。あところが、他の国家に関しては、それが何か意志をもってふるまっていることは明らかなようにみえる。つまり、国家は、外から見たときに、国民とは別の自立した存在としてあらわれる。それはまた、国家が、他の国家と関係する次元では、国内で見慣れているものとは疎遠な、すなわち、”疎外された”かたちであらわれるということを意味する。」(p254-255)

野田総理による尖閣国有化は、中共首脳部から見ると石原と総理の共謀による主権強化にしか見えなかったという。日本側がどれだけ共謀などない、と説明しても(実際、ないのであるが)、聴く耳を持たなかったという。これは、中共側が日本を国家理性を持って敵対しようと動いている主権者であると見ている証拠である。おそらく中共側にとっては、一連の対日行動は内部の複雑な利害関係の結果として今のようになってしまっただけで、自分たちの真意を日本は理解していない、と言うであろう。(実際、そうに違いない。)だが、その見方を日本側が共有することは、今の時点では期待できない。

「フランスにおけるボナパルトやプロイセンにおけるビスマルクの登場は、国家が自立的な存在であることを如実に示すものである。」(p266)
・政策を立案する官僚
・通貨価値の維持
・法の強制
・保護主義立法
・均質的国民の教育
・常備軍の維持
・課税による収奪と再分配
国家は、課税と再分配により市場社会により孤立化した大衆に向けて、互酬的機能を果たして民力を結集する。
国家は、通貨価値の維持、法の強制、保護主義立法、均質的国民の教育を行って、市場社会の成立条件を提供する。
以上のような政策を維持するスタッフとして官僚を持ち、国家を他国に対して維持するために常備軍を持つ。

「私企業が官庁よりも目的合理的に見えるのは、それが官僚制的でないからではない。何よりも、その『目的』が資本の自己増殖(利潤の最大化)という、明白かつ単純なものだからである。」(p269)

「産業資本の画期性は、労働力という商品が精算した商品を、さらに労働者が自らの労働力を再生産するために買うという、オートポイエーシス的なシステムを形成した点にある。それによって、商品交換の原理Cが全社会・全世界を貫徹するものとなりえたのである。」(p280)
オートポイエーシスなシステムが、資本主義を自己増殖させる根源の力である。前近代の商業は、社会全体を市場として巻き込むことをしない。21世紀になって、それまで市場として巻き込まれていなかった中国、インド、ロシア、ブラジルといった大人口社会が市場として巻き込まれることとなり、これが資本の流れを一変させている。おそらく、BRICsの賃金と先進国の賃金がカントリーリスクの分を残して同一になるときまで、世界において目立った技術革新は起きないであろう。その必要が資本にないからである。