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松本俊一『モスクワにかける虹』

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対日平和条約草案に対するソ連側の修正点(一九五一年九月五日)

一、第二条に対しては
「日本国は、、、東沙島、南沙群島、、、新南群島に対する中華人民共和国の完全なる主権を認め、ここに掲げた地域に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。」

いわゆる西沙・南沙諸島は1938年に日本が領有宣言したものである。これをサンフランシスコ条約で放棄したことになるが、ソ連案では中華人民共和国が継承することになっている。実際は戦後直後に民国が領有宣言し、サンフランシスコ条約後の1956年に南ヴェトナムが領有宣言した。中共政府の領有権主張は1973年からである。

尖閣・西沙南沙諸島に対する中共政府の領有権主張は、日本の敗戦による日本支配領土の再定義時点において中華民国が領有権ありと主張した領域を継承したものである点である。この主張は、中共が台湾を自国領と主張していることと一体であることがわかる。これらの主張は、太平洋戦後直後に起こった日本領土からの取り分を継続して主張していることにある。その主張に武力を用いていることは、国際紛争の平和的解決を目指すべき国連常任理事国の行うべきことでなく、互いに覇権を目指さないと宣言した日中条約の文言にも違背する。

中共政府の外務筋が近年沖縄列島の日本領有権に疑問を呈しているような主張を一部散見するが、これは太平洋戦後に作られた秩序の破壊再編成を目論む主張であって、上の諸島の主張とは全く別次元の、国際秩序破壊的な構想であると考えなければならない。

松本外交官のメモワールを読むと、外交に必要なのは一に政治家のビジョンと決意、二に実務外交官の国益を守らんとする意思と交渉相手と粘り強く話し合う対話力であろう。河野農相が外交の素人であるにもかかわらずソ連首脳と堂々と交渉する力を見せたことに松本外交官は感嘆している。意思・知識・それから人間としての度量。これらが必要だということだ。2002年の日朝交渉との落差は大きかった。